しいたげられたしいたけ

空気を読まない。他人に空気を読むことを要求しない。

浅田次郎『蒼穹の昴』1〜4(講談社文庫)

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

蒼穹の昴(2) (講談社文庫)

蒼穹の昴(2) (講談社文庫)

蒼穹の昴(3) (講談社文庫)

蒼穹の昴(3) (講談社文庫)

蒼穹の昴(4) (講談社文庫)

蒼穹の昴(4) (講談社文庫)

五つ星。宮崎市定科挙』、同『雍正帝』、三田村泰助『宦官』(いずれも中央公論社)やベルトルッチ監督の映画『ラスト・エンペラー』、村上もとかのマンガ『龍−RON−』で(私には)なじみの深い時代の物語なので読み始めた。主人公は、なんと宦官と状元(科挙に主席で合格したエリート)の幼なじみコンビ。第1巻p75は、ここ十数年の間に読んだ本の中で、これ以上に恐ろしいシーンはなかなか思い当たらない。
というわけで文字通り巻置くあたわず、全4巻一気読みしてしまった。うかつな話で、読み進めるうちにこれは歴史小説なのだと気づいた。実在の人物と架空の人物が虚実交えて活躍し始めるのである。ただし浅田ワールドのことで、西太后はおちゃめなおばさんだし、李鴻章はたゆまぬユーモアを持つ紳士だし、乾隆帝の幽霊は無責任で時々すけべなじいさんだし、栄禄や袁世凱のような悪役は存在するが誰にでもある短慮や私欲の結果であって根っからの悪人として描かれているわけではない。
ならば巨大な悲劇の原因は何かというと、4000年の歴史の末にほぼ完璧なまでに仕上げられた皇帝独裁と官僚主義というシステム以外にない。本書でもしばしば引き合いに出される本朝の明治維新を考えると、それ以前の体制が不合理と非効率の極みにあり、司馬遼太郎が言うようにもしあのまま江戸幕府が続いていれば欧米の植民地になる以外の運命はなかったであろう。中国の場合、旧来のシステムがより強固なものであっただけに、一旦それを破壊するのに必要なエネルギーも必然的に大きなものにならざるを得なかったと言えるだろうか。