しいたげられたしいたけ

人権を守るには人権を守るしかない。人権以外の何かを守ることにより人権を守ろうとする試みは歴史的に全て失敗した

浅田次郎『鉄道員〈ぽっぽや〉』(集英社文庫)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

未読だったので読んでみた。私の慧眼(←自分に使う言葉じゃない)は、「泣かせの作家」の秘密を見逃さない。「世界は嫌なものである」と言われる。この作家はいつも、物語の背景として世の中の過酷な現実をたんねんに描きこむ。『ラブ・レター』ではヤクザによる人身売買、『角筈にて』では大企業で出世競争に敗れた元エリート社員の末路、『伽羅』ではブティックという名の小売店を食い物にし骨までしゃぶるファッション・メーカー、『うらぼんえ』では両親の愛情に恵まれずなおかつ結婚した相手にまで裏切られるヒロイン…
そういう過酷な現実の中をあがくように生きる登場人物たちが、我が身を省みず至誠を貫こうとする大馬鹿野郎(←最大級の褒め言葉)が身近に存在することに気づく瞬間、読者の涙腺のパッキンはどこかへ吹っ飛ぶのである。