🍉しいたげられたしいたけ

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ピーター・ペジック、山下純一(訳)『アーベルの証明―「解けない方程式」を解く』(日本評論社)

数式のない数学の本は隔靴掻痒で物足りない、さりとて数式だらけの専門書は歯が立たない、というわけで、私にはこのくらいのレベルの本がちょうどいいです。ぶっちゃけ高校数学の、微積が出てくる直前あたりですな(実際には全10章中第8章以降は「置換」「対称」の話を経て群論に移行するが。すなわち大学数学)。ま、例えばこんな具合です…
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3次方程式の解の公式
「立方と辺の6倍の和が20になる」というカルダーノの例,つまり3次方程式x3+6x=20を考えよう.この方程式を完全立方の形にしたい.まず,x=u-vと置くというトリックが必要だ.上の図で,x3は大きい方の影を付けた立方体の体積で,1辺がAC=uのさらに大きな立方体に埋め込まれている.1辺がBC=vの小さい方の影を付けた立方体もある.1辺がuの立方体から1辺がxの立方体を切り出すには,3回の切断が必要だ.1回の切断によって,体積がu2vの直方体が切り取られるが,こうしてえられる3個の直方体は重なっている.2個の直方体の重なった部分の直方体の体積はuv2となる.ただし,3個の重なった部分がまた重なっており(つまり,3重に重なった部分があり),それは立方体で体積はv3である.したがって,象徴的に書けば,
  x3=u3-((切り取られる直方体3個の体積)
      -((重なり全体の体積)
      -(重なりの重なりの体積)))
つまり,
  x3=u3-3u2v+3uv2-v3
となる.最初の方程式にするには,この x3に6x=6u-6vを加えればよい.
こうして,
  x3+6x=u3-3u2v+3uv2-v3+6u-6v
がえられる.この右辺を完全立方の形に近づかせるために,とりあえず

  -3u2v+3uv2-v3+6u-6v=-3(uv)u+6u+3(uv)v-6v
                   =-3u(uv-2)+3v(uv-2)
                   =-3(uv-2)(u-v)
が消えてくれるとうれしい.そのために強引にuv=2と考える.こうすれば,明らかに
  -3u2v+3uv2-v3+6u-6v=0
となる.立方完成をめざして,uとvが関係式uv=2を満たすものと考えるわけだ.
あとはやさしい.

(p35〜36 図も)
3次方程式の解の公式導出目前まで。残念ながら私には数学センスはないが、このような数式を「美しい」と感じる能力は、かろうじて備わっているようである(リーマンのゼータ関数の「美しさ」はわからないが、オイラーの公式の「美しさ」なら理解できるレベル)。
とは言うものの、本書巻末の付録に収められているアーベルの原論文そのものを理解するのには、相当に骨が折れるのだが。
なお、(本来はこの本に限ったことではないのだが)訳書というものは原著者と翻訳者の共同作業の賜物なのだなあと、あらためて感じる。
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