- 作者: 岸田秀
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1993/05
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という訳で(どんな訳だ?)『ものぐさ精神分析 (中公文庫)』で知られた精神分析学者のエッセイ集というか雑文集。この著者の主張はワンパターンで、本書では「必要悪としての道徳」(p204〜)に凝縮されている。曰く、人間は本能が壊れてしまった動物で、その代用品として「文化」とか「社会」とか呼ばれる人工物をつくりあげ、それに適応することによって生き残ることに成功している。神経症とか精神病とか呼ばれるものは、そのつくりものに適応しそこなった結果に過ぎない…
この「唯幻論」=「すべては幻想である」を武器に国家だとか宗教だとか常識だとかいうものを次々とひっくり返していく著者の筆の運びは小気味よいが、別の本で誰かが指摘していたように「ではその唯幻論も幻ではないのか?」(確か伊丹十三による『ものぐさ精神分析 (中公文庫)』の解説ではなかったかな)という反論に対しては著者はなんと答えるのか興味の持たれるところではある。
「唯幻論も幻でかまわない。私は自分の苦しみから逃れるために唯幻論を作り出すしかなかった」という、いわばひらきなおった答えが返ってくるかもしれない。それはそれでよいのだろう。ただ、この人の本を何冊か読むうちに、「既成概念を使って既成概念を打破しようとしている」と言うべきか「紋切り型を使って紋切り型を否定する」とでもいった感じの不徹底さが目に付くようになる気がする。つまり本当に全てを否定し去ってゼロから公理系を再構築するとでもいった徹底的な姿勢は見られないのである。まあ、「じゃそれを現にやっているフッサールあたりでも読んでみれば?」と言われたら、困る準備はあるのだが。
- 作者: 岸田秀
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1996/01/18
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