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町田健『チョムスキー入門 生成文法の謎を解く』(光文社新書)

文の構造を解析する方法として、チョムスキー以前にはブルームフィールドの「直接構成素分析」というのがあって、これは「どんな文でも二つに分けていって、最終的に個々の単語にたどり着く」という考えに従って文の構造を表そうとする方法だそうだ。
例えば本書p39に登場する"A pretty girl played the piano in the auditorium."という文の例だと、まず"a pretty girl"と"played〜"以下の部分に分割して、という感じですな。
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アップした画像の上半分は、小さくなって見づらいけど、本書p40に掲げられた分析の過程を示す図です。
だがこの方法には大きく二つの問題があって、ひとつは「分割の基準が何なのか」ということと、もうひとつは「構造を一般的に表す方法がない」ということなのだそうだ。ただし前者には「別の一語で置き換え可能」という一応の答えが用意されているのだという。例えば"a pretty girl"は"she"に、など。へぇ。しかしこの基準は、英語に対してはまあ巧くいくけど、日本語のように「太郎は」の「は」のような助詞のある言語に対しては無力だという。
そこでチョムスキーの「標準理論」というのが登場する。「直接構成素分析」との違いは、すべての構成素に名前をつける、ということだそうだ。先の"A pretty girl〜"という文の例で言うと、"a pretty girl"の部分が「名詞句」、"played〜"以下の部分が「動詞句」と名づけられる。さらに「動詞句」は「動詞」「名詞句」「前置詞句」に分割され、最終的には個々の単語にたどり着く。アップした画像の下半分は、これも小さいけど、本書p43にある分析の過程を示す図です。
以下、「句構造規則」「深層構造」「表層構造」など、チョムスキーの用いた概念の説明が始まるが、ここまでだけでもいい加減長くなりすぎてしまったので割愛します。
著者はあきらかに生成文法プロパーの研究者ではなく、生成文法そのものが発展途上であり多くの課題を抱えているにせよ、著者の筆致は生成文法に好意的とは思えない。生成文法プロパーの研究者がこの本を読んだら怒るんじゃないかな?まあ私の知ったことではないけど。それから新書本にしては珍しく巻末に索引がついている点はありがたい。これは他の新書もぜひ見習ってほしい。
で、門外漢としては、「一般的な説明となりそうなアイデアを探し、候補が見つかったら「例外」を徹底的に洗い出す」という方法論が興味深かった。それからチョムスキー以前の「直接構成素分析」でも、難解な文章や外国語を読むときには、けっこう役に立つんじゃないかな、と思った。わかりやすい文章を読むときには、我々は無意識にそういうことをやっちゃっているんだろう。以前同じ著者の『コトバの謎解き ソシュール入門 (光文社新書)』を読んだときにも「ダイコトミー(二分法)は難解な単語を理解する手助けになるのでは?」というつもりのことを書いたけど、けだし文の構造を理解しようという努力は、文の意味を理解しようという努力に、過程はともかく本質において極めて近くて当然なのだ。