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新藤通弘『革命のベネズエラ紀行』(新日本出版社)

革命のベネズエラ紀行

革命のベネズエラ紀行

かつて「アメリカ合衆国の裏庭」と言われた南米が今、すごいことになっている。左派や中道左派の政権が次々と誕生して、とくにパナマ以南の南米大陸に限ると、親米右派政権はコロンビアとスリナムくらいしか残っていない。ブラジルのルラ政権(2003年成立)、アルゼンチンのキルチネル政権(2003年成立)、ウルグアイのバスケス政権(2005年成立)、ボリビアのモラレス政権(2005年成立)、それに今年の6月の大統領選挙で誕生したばかりのペルーのガルシア政権などは、すべて中道左派か左派に分類されると言われる。
なかでも1998年に成立したベネズエラのチャベス政権は、明確に反米・親キューバの姿勢を取ることで有名であるが、日本では私の知る限り『ベネズエラ革命―ウーゴ・チャベス大統領の戦い ウーゴ・チャベス演説集』(VIENT)という演説集が翻訳・出版されているくらいで、同国の情勢をあまり詳しく知ることはできなかった。
というわけで、本書が出版されたと知りさっそく読んでみた。
ある程度予想はしていたのだけど、やっぱりと言うか何と言うか、アメリカ主導の新自由主義的な制度改革がいけなかったんだよね(^^;
南米各国は80〜90年代に軒並み対外債務の激増と通貨危機に苦しみ、「失われた10年」とか称された(日本のポストバブル期を指すこともあるこの言葉の元祖は、実はこちらである)。そこへおそらくはアメリカの肝煎りで、各種の国際機関により示された処方箋というのが、市場原理にもとづく自由競争を第一とする新自由主義的政策で、これは素人考えでも飢餓状態にある患者に糖尿病患者用ダイエットを押し付けるようなものであった。
典型的な例がベネズエラの農業情勢である。同国は大土地所有制(ラティフンディオ)が進んでいるラテンアメリカ諸国の中でもとりわけ土地所有の集中が極端で、ジニ係数は0.9以上にも達し、三万ヘクタール、五万ヘクタールを所有する地主すら存在するという(本書p120)。ちなみにWikipediaによると東京都の東京都の耕地面積は8460ha(2003年、農林水産省)。しかも土地の所有権があいまいで、不法占拠されている国有地・公有地すらかなりの面積に上るという。そして地主による土地の囲い込みのため適切な耕作がなされず広大な未耕作・休耕作農地が出現し、かつての農業国であったベネズエラの食料自給率は、30%台にまで落ち込んだという。
だいたい埋蔵量世界5位、産油量世界4位の石油大国ベネズエラの経済が、90年代には374億ドルという巨額の対外債務、年平均53%のインフレ率、GDPの7.8%の財政赤字(データはいずれも本書p60)にあえいでいたというのが、異常事態であったのだ。現在の日本では「社会主義」というと批判のための言葉のようになってしまっているが、石油公社幹部の年収10万〜400万ドルに対し一般労働者の平均年収3000ドル(p60)という国にあっては、「社会主義」というのは素朴な意味での「正義」であったのであろう。
チャベス政権は2002年のクーデター未遂事件(このときチャベス大統領自身が一時身柄を拘束された)や2002〜2003年の石油産業における大規模なストなどの危機を乗り切り、特に国政選挙や地方選挙などの選挙では「十連勝」と言われる圧倒的な強さを見せつけ、現在のベネズエラは04年に17.9%、05年に9.4%のGDP成長率を示すなど経済的にも上向きになっているという(p114)。
それにしても、本書「あとがき」にも記されていることだが、経済改革の指針として新自由主義的政策一辺倒の日本は、いいのかこれで?地方税や国民健康保険料の大幅値上げに対して、高齢者・年金生活者などからすさまじい悲鳴があがっているのだ。
ベネズエラ革命―ウーゴ・チャベス大統領の戦い ウーゴ・チャベス演説集

ベネズエラ革命―ウーゴ・チャベス大統領の戦い ウーゴ・チャベス演説集