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小林篤子『高齢者虐待―実態と防止策』(中公新書)

高齢者虐待―実態と防止策 (中公新書)

高齢者虐待―実態と防止策 (中公新書)

きっつい本です。しかし、こういう本には多くの読者を獲得してほしいと願います。
新聞連載をまとめたものだけあって、多くの事例が紹介されている。
第一章は家庭内の虐待の話。2003年に神奈川で、八十一歳の母親に、殴る蹴るの暴行を加えて死なせた五十二歳の男性のケース。人づきあいが苦手で独身だった男性には、「頼りになる母」が痴呆になり、それまでやっていたことが次第にできなくなり、粗相までするようになったことが、理解できなかったのだろうと著者は書く(p21)。家族からの虐待を被害者自身が隠そうとすることもしばしばあり、足を骨折して歩行が不自由になった七十五歳の女性に、暴行を繰り返していたのが小学生の孫だったという、推理小説のような事例も紹介されている(p61〜)。
第二章は施設における虐待の話。入所者に対する監禁と暴行を繰り返していたという石巻市の「うらしま」という施設では、「腐った食べ物や、犬の毛が混じった食事を出されている」「面会の家族にも会わせてもらえない」という匿名の告発の手紙が市役所に届いたという。すると施設の代表は市の職員に「告発の手紙を見せてほしい」と頼み、信じられないことに市の職員はそれに応じてしまう。形ばかりの市当局の立ち入り調査が終わった後、代表は「こんなことをした奴は誰だ!」と激怒し、「犯人探し」が始まったという(p74)。
なんでこのような施設が放置されていたかというと、「うらしま」が、よその病院や施設の受け入れてくれない人を受け入れてくれる「行政にとって便利な施設」(p75)だったからだという。どうもこの業界には、入所者を人質に取るような体質があるように感じられてならない。別の事例。

 ヘルパー資格を取得するため、北関東の特養に実習に訪れていたある女子学生は、入浴介助のときにシャワーのお湯を入所者の顔にかけ続けている男性職員の姿を見たことがある。「わがままばかり言うから、こうしてやる」「どうだ、苦しいだろう」――。笑いながら言う職員を、周りの職員は見て見ぬふりしていたという。
 この女子学生は、驚いて学校に提出する報告書にこの出来事を書いた。だが、報告書を受け取った教員は「こんなことを書いたら、来年から実習を受け入れてもらえなくなる」と、削除を命じた。

(p79)
こんな事例が1〜2ダースも並ぶのを読んでいくと、暗澹たる気持ちにならざるをえない。行政の担当者や施設の経営者は「もし自分が入所者だったら」いや、「自分も老いる」という最低限の想像力もないのだろうか、と不思議に思った。
第四章「虐待をどう防ぐか」で、想像力が欠如している点では私自身も五十歩百歩なのではないかと悟らされる話にぶつかった。高齢者対象のリハビリに取り組む香川県の病院では、看護師と介護職員全員が半日間、オムツをつけて半日間を過ごすという試みをおこなったという。

「まるでバケツをぶら下げて歩いているような気分だった」
「湿った固まりが気持ち悪い。一刻も早く交換してもらいたかった」
「他人にオムツを替えてもらうのは、恥ずかしく、情けなく、たまらなかった」
 オムツ体験後に行ったアンケートは、オムツを使用する不快感で埋め尽くされた。

(p203)
あと、ちょうどBUNTENさんがコムスンの話題を扱っているので、リンク貼らせてもらいます。
http://d.hatena.ne.jp/BUNTEN/20070609