しいたげられたしいたけ

空気を読まない。他人に空気を読むことを要求しない

岡田斗司夫『「世界征服」は可能か?』(ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

問題設定はメチャ面白そう。だが、内容的なツッコミが今一歩。
NHKアニメ『ふしぎの海のナディア』の制作会議で、当時ガイナックス代表取締役だった著者に、庵野秀明監督がこんな疑問を投げつけるのが本書の導入部である。
「ところで、このガーゴイルって秘密結社は、なんで世界征服〔せいふく〕なんかしたいんでしょうね?」(p9)
「そんな面倒〔めんどう〕なことせずに、高度な科学力で自分らだけ楽しい暮〔く〕らしすればいいのに……」(同上)
でもって、ガーゴイルの活動を練って「潜水艦による世界の通商路の破壊」なんて案が浮かぶと、物語の舞台である20世紀初頭は帝国主義真っ盛りの時代であって、「先進国による植民地化の妨害」=『正義』なんじゃないか、という疑問が出てきたりする(p12)。
どうです、面白そうでしょ?
ただ、その先がどうも…
悪の首領を
Aタイプ:魔王〔まおう〕 「正しい」価値観ですべてを支配したい(p51〜)
Bタイプ:独裁者 正義感が強く、働き者(p58〜)
Cタイプ:王様 自分が大好きで、贅沢が大好き(p68〜)
Dタイプ:黒幕 人目に触れず、悪の魅力に溺れたい(p73〜)
の4つに類型化するところまでは上出来だと思ったんだが、そこまで行ったんだったら目の前まで見えている敵の本丸=「自己愛」という一大テーマに、一歩も近づこうとしないのは、物足りない(まあ、準備なしに下手に扱うと間違いなく血まみれになるテーマではあるが)。
また、著者はたびたび現実の歴史に類例を求めているが、言っちゃ悪いが著者の歴史の知識はイマイチだったりする。
例えば信長が茶の湯を流行らせ、彼が良いと行った茶器には高値が付いたという記述があるが(p124)、引き合いに出すのであれば秀吉の方でしょ?利休、有楽斎、織部が名をはせたのは、秀吉の時代だ。
日本で最初にハーレムを組織的に作ったのは徳川幕府だなんて書いているが(p133)、奈良・平安の王朝時代からあったってば。でなきゃ『源氏物語』もなかった。朝廷がモデルにしたのは、言うまでもなく古代中国の後宮制度だ。
秀吉の幼い子供たちが次々に病死したとあるけど(p134)、秀頼以外の秀吉の実子とされるのは鶴松(お捨)の一人。長浜時代に側室が秀勝という子を産んだとも言われるが、ウィキペってみると「存在を疑問視する声も多い」とのこと。
吉宗は大奥制度を拡充させ、子供を山ほどつくるという政策をとったというけど(p136)、吉宗はむしろ大奥リストラのエピソードで有名。子供をじゃんじゃん作って養子に出したというなら、50人以上(wikipediaによると53人、他にも55人、56人などの説あり)の子供を産ませた11代将軍の徳川家斉でしょ?
と言うわけで、間違いとは言い切れないとしても、もっといい例があるのでは、と言いたくなる記述が、どうにも多い気がする。
あと「悪の組織」についても、組織論の導入としては面白いが、組織論というものは奥行きがものすごく深いのだ。
なにより「アメリカの世界支配」(p150〜)に関する分析が、私には一番もの足りない。現代アメリカを帝国主義=植民地支配の最後の継承者と位置づけて分析すると、すごいんだぞ、あの国は!良くも悪くも、すごいんだぞ!だが著者は、古代ローマ帝国(というより著者の念頭にあるのは『スター・ウォーズ』の銀河帝国か?)と比較して、茶化すだけで満足しているように見受けられる。
つまり、せっかくいろんなジャンルのとば口を開きながら、どの方面へも掘り下げが不十分な気がして仕方がないのだ。もったいない。
じゃ、どうする?このテーマで自分で一冊書くか?(^▽^;