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伊高浩昭『コロンビア内戦―ゲリラと麻薬と殺戮と』(論創社)

コロンビア内戦―ゲリラと麻薬と殺戮と

コロンビア内戦―ゲリラと麻薬と殺戮と

南米コロンビア共和国で大量の枯葉剤が散布されていることをネット経由で知り、より詳しい話を知りたくなって読んでみた。
中南米諸国のご多分に漏れず、コロンビアも植民地時代の社会構造がそのまま温存され、スペイン人入植者の子孫である一握りの大地主や大富豪が国富の大半を独占し、一方で先住民やアフリカから連れてこられた奴隷の子孫、および彼らの混血は、貧困層に押し込められている。
この国民の大部分を占める貧困層が、ゲリラ組織や麻薬マフィアを生む土壌となる。
コカはもともと南米各地に自生し先住民が嗜好品として咬んだりしていたが、精製するとコカインになる。これが米国の麻薬市場に運ばれ巨利を生むようになると、他にこれといった現金収入源のない農民が飛びつくのである。さらに大麻、キナ、ケシの栽培も広まり「なんでもあり」の状態が現出する。
かくしてコロンビア国内には、メデジンカルテル、カリカルテルと通称される二大麻薬マフィアが成長する。とくにメデジンカルテルは、1984年には当時のロドリコ・ララ法相が「脅迫も買収も通用しないと判断するや」(p120)これを暗殺し、翌'85には最高裁襲撃事件を起こすなど、過激な武闘路線をとり、ついには'89に大統領候補のルイスカルロス・ガラン上院議員を暗殺したことをきっかけに「麻薬戦争」と呼ばれる当局との全面対決に突入する。
「麻薬戦争」は、'93にメデジンカルテルのトップであるカルロス・エスコバルが警察特殊部隊によって射殺されたことで、ようやく終息する(p195)。しかし麻薬マフィアが衰退しても、その空白を埋めるように、ゲリラ組織が活動資金源として麻薬産業に関与を深める。
コロンビアには、極右私兵隊という、ある意味でゲリラや麻薬マフィアよりやっかいな組織がある。大地主など富裕層に雇われ、軍・警察と連携して、ゲリラのシンパとみなした農民、労組幹部、さらには政治家や弁護士、ジャーナリスト、大学教授、学生などを、毎年1000人以上殺しているという。それも「電動鋸で体や首を切断して殺すのは、ごく普通の手口となっている」という報道が頻繁になされているそうだ(p124)。'01には2500人が殺されたという推計もあるという(p217)。彼らも麻薬取引に関わり活動資金の一部としているのだそうだ。
'02に就任したウリベ現大統領は、「思想的には、父親がゲリラに殺されたこともあって右翼・鷹派」で(p259)、米ブッシュ政権から巨額の軍事援助をとりつけ、力による麻薬取締、ゲリラ制圧の政策をとっている。米国から供与された21機の航空機による枯葉剤の散布も、その一環である。
本書は'03初版と少し古い本で、ウリベは大統領再選を禁じていた憲法を改正して'06に再選を果たしている。枯葉剤散布は現在も続いており、越境被害を受けた隣国のエクアドルから抗議されたりしている。著者もたびたび強調していることだが、「大土地所有」「寡頭勢力支配」というゲリラやマフィアを生み出す社会構造を手つかずのままにして、枯葉剤をいくら撒いたって、問題は解決するものだろうか?だがウリベに対する国民の支持は絶大だそうで、仮にそれが元々政府支持者である富裕層を主な調査対象としたものであったとしても、「強権を発動すれば問題は解決する」とでもいうような幻想が、世界中の少なからぬ割合になんとなく共有されているようだとしたら、それはかなり恐ろしいことのような気がする。経過をたどると事実は全く逆で、強権を発動すればするほど事態はこじれるのが常なのではないか?