しいたげられたしいたけ

空気を読まない。他人に空気を読むことを要求しない

箕輪優子『チャレンジする心―知的発達に障害のある社員が活躍する現場から』(家の光協会)

チャレンジする心―知的発達に障害のある社員が活躍する現場から

チャレンジする心―知的発達に障害のある社員が活躍する現場から

BUNTENさんのところのブログ
「[本][福祉][労働][経営]チャレンジする心 知的発達に障害のある社員が活躍する現場から」
http://d.hatena.ne.jp/BUNTEN/20080611
「[福祉][労働][教育][経済]それは知的障害なのか」
http://d.hatena.ne.jp/BUNTEN/20080517
およびその元ネタである「福耳コラム」
「障害者雇用について語りやすくする名著「チャレンジする心」」
http://d.hatena.ne.jp/fuku33/20080517/1211010610
を読んで興味を抱いていたが、やっと読んだ。
著者は横河ファウンドリー株式会社の取締役。横河ファウンドリーというのは、知的障害者を雇用するために設立された横河電機の特例子会社で、製品の解体や、パソコンを使った名刺・ゴム印などの製作を請け負っている。
新会社の立ち上げに当たって、初めて説明会を開催したところ、70名ほどの希望者が集まった。面談してみると、のっけから「お母さんと先生から行けと言われたから来た」「本当はもっと別のことをやりたい」「どうして働かなくてはいけないの?」などと言い出す人がいて、そういう人には帰ってもらうしかなかったという。
実際の作業に使用する工具の使い方を説明し、とにかく30分間、作業に取り組んでもらい、最後まであきらめずに工具と格闘し続けた応募者を採用することにした。残ったのは6名だけだったという。その6名を実習生として、精密機械の解体訓練をスタートした…
本当はここからが読みどころである。6名の実習生=後の横河ファウンドリー社員の、一人一人のエピソードと成長の過程が語られる。「福耳コラム」で絶賛されているのがよくわかる。
だけど…どう言えばいいんだろうか、この本で語られる環境は「例外的に恵まれている」という印象が拭えない。何といっても横河電機という大企業の後ろ盾がついている。「三年以内に黒字にならなかったら解散」というきつい設立条件があったにせよ、バックがあるのとないのとでは大違いである。そういうもののないごく一般的な作業所だと、いつぞや書いた真偽不詳の数字だが「月3万7千円の応益負担を支払い、3千円の給料」ということになりかねない。
あるいは著者は、新人研修中に実習生の自己評価を書かせたところ「ゴキブリ」「バカ人間」「のろま」と書かれていて、それが彼らが周りの人から投げつけられてきた言葉なのだと悟って衝撃を受ける。そして実習生たちに自尊心を取り戻させるための試行錯誤を始める。本書の中でも指折りの印象深いくだりである。
ここで採用試験で落とされた人たちのことが、つい気になってしまうのである。企業である以上、採用と不採用を決めるのは当然のことである。だが個人的に関わりのある福祉事業所のようなところは、来たいという人を拒むことはできない。採用試験で落とされた人たちは、ネガティブな自己評価をまた一つ重ねて、福祉事業所に戻ってくるのだろうか。
まあ自分にないものを夢見てもしかたがない。今のところ自分にできることは、わずかな額の発注と、週一程度のボランティアである。しばしば書いているように、いずれも自分のためだ。発注はコストメリットがあるから、ボランティアは自分の居場所をもらっている。それを継続しながら、ない知恵をしぼってできることを考えてみよう。
他方、「大企業」と呼ばれる企業が日本にいくつあるか知らないが、一つでも多くのそうした企業で、できれば全部で、横河電機のような取り組みがなされることを切に希望する。あたりまえのことだが、企業にできることは個人にできることとは桁違いだ。