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鎌田茂雄『観音のきた道』(講談社現代新書)

観音のきた道 (講談社現代新書)

観音のきた道 (講談社現代新書)

観世音菩薩(観自在菩薩)の来歴を仏典までさかのぼり、朝鮮半島・中国・チベット・台湾・シンガポール・マレー半島に広く見られる観音信仰をたどり、日本国内における観音信仰の受容の歴史を概説した本なのだが…
例によって思いっきり邪道なというか、おそらくは著者の意図から大いに外れたであろう読み方をしてしまった。
観世音菩薩の登場する仏典といえば誰でもまず指を屈するのが『法華経』の「観世音菩薩普門品」すなわち『観音経』であろうが、それ以外にも実にさまざまな仏典に名前が出てくる。本書では『悲華経』と『観世音菩薩授記経』に、比較的多くのページが割かれていた。
『悲華経』は、名前だけは知っていたが内容まではなかなか調べることができず、ハードルは限りなく高いけど漢文を読む修行をして大正新脩大藏經テキストデータベースに公開されている原文の白文を読むしか手はないかな、と諦めていたのだ。ダイジェストであっても概要が読めるのはありがたい。
なんで『悲華経』を読みたいと思ったのかというと、この経典には阿弥陀如来がまだ在家の人間だった時のエピソードが出てくるということを、どこかで知ったからだ。私は観世音菩薩ももちろん好きだが、それ以上に阿弥陀仏のファンなのである。
本書P37以下によると、阿弥陀如来は前世において、無諍念〔むじょうねん〕という王だったことがある。臣下に宝海という大臣がおり、その息子の宝蔵が出家し悟りを開いて宝蔵如来という仏となった。
無諍念王はこの宝蔵如来に帰依し、宝蔵如来の前で人々を救うために五十一の誓願を立て、宝蔵如来はそれを称賛して無諍念王に対して授記(将来仏になるという予言)を与えたという。
これのどこが興味深いかというと、『無量寿経』の内容を知っている人間にとってはめちゃくちゃ興味深いのだ!
『無量寿経』においては、阿弥陀如来は出家前はやはり国王だったが国王時代の名前は出てこないのでわからない。修行時代の菩薩としての名前が「法蔵」なのだ(「宝蔵」と似ているけど違う)。そして師匠は世自在王仏という仏であり、誓願の数は四十八なのだ。
仏典においては、こういう微妙に重なってるけど微妙に違う話がしばしば出てくることが、ファンの興味をかき立てる。以前も書いたけど『阿弥陀経』に名前だけが登場する須弥燈仏、香上仏とおぼしき仏様が、『維摩経』では須弥燈王如来、最上香積如来という名前で登場して活躍する。さらに『維摩経』にも阿弥陀さまは名前だけは登場して、お釈迦さまや阿閦如来と連れ立って維摩居士の家に遊びにくる旨が、登場人物の天女の口を介して語られる…ああ、きりがない!
観音さまに話を元に戻すと、『悲華経』では無諍念王の息子として登場する。千人いる無諍念王の第一王子だ(いやはやいつもながら古代インド人の想像力というのは…)。
王子はやはり宝蔵如来に帰依し、宝蔵如来から、阿弥陀如来が涅槃に入った後に跡を継いで「一切珍宝所成就世界」という仏国土の「偏出一切光明功徳山王如来」という仏になるという授記を受ける。
わりと知られた話だと思うけど、仏典によっては阿弥陀如来も入滅することがあるのだ。はるかにはるかに遠い未来の話だというけど。
『観世音菩薩授記経』は、本書で初めてその存在を知った。お釈迦さまの脇侍である文殊・弥勒菩薩と、阿弥陀如来の脇侍である観音・勢至菩薩が、相互往来して交歓するというなんとも楽しそうな経典である。『観世音菩薩授記経』においては、観音菩薩は阿弥陀如来の滅後に、「衆宝普集荘厳世界」という仏国土の「普光功徳山王如来」になるという(P50)。
ここで仮説が浮かぶ。阿弥陀如来は数え方によれば仏典の4割までに登場すると言われるが(どこで読んだか忘れた。探せたら追記します)、法然上人はその中からなぜ『無量寿経』『観無量寿経』『阿弥陀経』を選び取って浄土三部経としたのだろう?ひょっとしたら「阿弥陀如来が入滅する」旨の書かれた経典を意図的に除外したのかも知れない。『無量寿経』には何種類もの別訳があり、別訳中には如来涅槃が記されているものもあるが、それらはやはり正依の経典から除かれている。
追記:
「阿弥陀如来は仏典の4割に登場する」は「4分の1に登場する」の記憶違いで、出典は、坂東性純『浄土三部経の真実』でした。
NHKライブラリー版P18「シルクロードを通って中国に伝えられた経典は、約九百四十ぐらいあったといわれ、その中で阿弥陀仏およびその浄土を説く経典が二百七十四あったといいます。中国に伝えられた全経典の約四分の一は、阿弥陀仏ならびにその浄土に関する教えを説いた経典だったということになります。」P50にも、ほぼ同内容の記述があります。
274÷940≒0.29だから4割じゃなく4分の1でもなく約3割ですが…
浄土三部経の真実 (NHKライブラリー (4))

浄土三部経の真実 (NHKライブラリー (4))