🍉しいたげられたしいたけ

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謎解き日本のヒーロー・中国のヒーロー(その5)

一回に一人ずつテーマに駄文を書き連ねて来ましたが、回数を数えずに始めたんで、今回で破綻しました。

01864/01866 CXX02375 わっと 日本のヒーローの条件その7・政治オンチ

( 3) 98/03/06 23:39

 豊臣秀吉を政治オンチというのはどうかと思われますが、それでも「文
禄・慶長の役」という日本外交史上銀メダルに輝く大失政をしでかしてい
ます。

98/03/06(金) わっと(CXX02375)

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ゆうきまさみの初期の傑作に『ヤマトタケルの冒険』という作品があります。雑誌「OUT」に短期連載されていたのを、リアルタイムで読んでいました。ネットで検索すると、こちらに収録されているようです。 

ゆうきまさみ初期作品集 early days (1) (角川コミックス)

ゆうきまさみ初期作品集 early days (1) (角川コミックス)

 

メジャーデビュー後はすっかり封印してしまったエロが自重なしに出てくるのも面白いのですが、主人公の人物造形に感嘆させられた記憶があります。

 ヤマトタケルはひょんなことから実兄を殺してしまったため、父親の天皇から懲罰的に九州のクマソ征伐を、次いで東国のエミシ征伐を命じられます。東国に向かう途上、伊勢斎宮の叔母と面会し、父親が自分を疎んじていることを嘆くのですが、叔母は即座に「ははぁ、この子、政治的なアタマがぜんぜんないんだわ」と見抜きます。都では異母弟を次帝に担ぐ陰謀が、進行中というよりほぼ完了しているのです。

政治オンチと言えば、司馬遼太郎『義経〈下〉 (文春文庫)』裏表紙の作品紹介には、こんな文章が載っています。

彼は軍事的には天才ではあったが、あわれなほど政治感覚がないために鎌倉幕府の運営に苦慮する頼朝にとり、毒物以外の何物でもなくなっていた。

 政治オンチのヒーローというのは、ある意味わかりやすいというか、わかった気になりやすいのですが、しかしここでいう「政治」とは何ぞやと考えると、ちょっくら掘じくり返すに足る問題が潜んでいるように思われます。

「あの上司は社内政治が好きだ」「あいつはすぐ政治を始める」なんて陰口があります。このとき「政治」というのは、おそらく権力志向のことでしょう。実は日本人は、そういう物語もそれはそれで好きっぽいんですよね。往年の植木等の『無責任男』シリーズから、マンガ『島耕作』シリーズ、『サラリーマン金太郎』シリーズまで、「偉い人の懐に飛び込むように取り入る」というのが、出世譚の定番コースです。ジョージ秋山『銭ゲバ』にもそんなストーリーが出て来ました。

しかし、そういう「政治」と、政治学とか政策とかいう場合の「政治」は、明らかに別物です。困ったことに我々には、注意していないとその両者を混同しがちな嫌いがあるのではないでしょうか。意識さえしていれば容易に避けられることですが。

豊臣秀吉は、織田信長の武将だったとき、もちろん抜群の能力を持つ指揮官・戦術家でもあったのですが、出世前の草履取り時代に寒い朝に信長のゾウリを肌で温めたという真偽不明の伝説に代表されるように、「組織内政治」にも抜きん出て長けた人というイメージもあります。その人心掌握術は天下統一の過程でも有効に発揮され、主君は今川・浅井・朝倉・武田など敵対する勢力を壊滅させるまで満足しなかったのと対照的に、彼は毛利・上杉・長宗我部・島津・伊達らの有力大名を次々と懐柔しました。彼らが自分に膝を屈しさえすれば、本領を安堵し、次の戦の戦列に参加させたのでした。

だが一旦最高権力の座に着くと様子が変わります。正確にはその直前に、最後に残った有力大名・北条氏に約束した二ヶ国安堵を反故にし取り潰したのを手始めに、一旦後継に指定した秀次とその一族に対する容赦ない虐殺、文禄・慶長の役という誰の得にもならなかった大失政、結果として自家を滅亡に導く淀殿と秀頼への偏愛など、かつて天下を目指した時代と同一人物とは思えないおよそ思慮というものの伺えない権力の暴走を次々と連発します。

徳川家康は秀吉以上に権力をほしいままにしましたが、徳川家による世襲体制の確立という一点に目的を定めたのと好対照です。「その3」で名前を出したみなもと太郎の代表作は言うまでもなく『風雲児たち』ですが、その最初の方で「江戸時代のあらゆる法制度は、たった一人の将軍を守るために存在した」という見事な要約を行っています。そのことに対する評価はここでは措くとして、少なくとも秀吉の権力行使は行き当たりばったりであり合目的的ではなかったとすることは可能と考えます。

現代の社会でも、会社などさまざまな組織において、組織内部での権力獲得が巧みな人間が、その組織自体の運営に長けているとは限りません。しかしもし両者が同じ「政治」という俗称で混同されることがあったとしたら、組織自身にとどまらず社会全体に対しても、様々な不幸を招く原因になりかねないだろうな、などと漠然と考えます。

(つづく)

新装版 義経 (下) (文春文庫)

新装版 義経 (下) (文春文庫)