しいたげられたしいたけ

人権を守るには人権を守るしかない。人権以外の何かを守ることにより人権を守ろうとする試みは歴史的に全て失敗した

「死刑囚のパラドックス」別解

昨日のエントリーの続きです。「死刑囚のパラドックス」に関しては、次のような解釈も考えたことがある。
例によって問題を簡略化し、死刑が執行されるのは土曜日か日曜日の二択ということにする。
すると問題は、次のような命題が矛盾なく成立するかどうかに帰着される。
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金曜日に看守が死刑囚に、次のように告げた。
「お前の死刑は明日の土曜日か明後日の日曜日のどちらかに執行される。死刑が行われる日は、その日の朝に告げられるまでわからない」
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やや言葉足らずな気もしないでもないが、看守の言葉は矛盾なく十分成立するように思われるが、いかがだろうか? すなわち土曜日の朝になれば、死刑が執行されるのがその日の土曜日であるか翌日の日曜日であるかは、否応なく判明する。だがそれまでの時点で、死刑が行われるのが土曜日か日曜日かを知ることはできないのだ。
死刑囚が「もし土曜日に死刑が執行されなければ、死刑が執行されるのは日曜日だとわかってしまう。だから『死刑が行われる日はその日の朝に告げられるまでわからない』という命題は成立しない」と主張することは可能だろう。
しかし看守が、それこそ先ほどの「言葉足らず」という言葉を使って…
「これは言葉足らずだったな。死刑が行われる日は、土曜日の朝に『死刑は今日執行される』と告げられるか告げられないかが判明するまではわからない、とでも言えばよかったね」
と返されたら、死刑囚には反論するすべは残っているだろうか? 反論自体はいかようにもできるかも知れないが、その反論に死刑の執行を中止させるまでの力はないように思われる。
この問題を、トランプを使って次のように置き換えることを考えたことがある。
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看守は死刑囚に二枚のトランプを示した。
看守「ここに二枚のトランプがある。一枚はジョーカーだが一枚はジョーカーではない。この二枚を、どちらがジョーカーかわからないように重ねることができると思うか?」
死刑囚「できる決まっているだろう!」
看守「だがさっきのお前の理屈を使うと、できないことになる。その理由はこうだ。重ねた二枚のカードのうち下のほうがジョーカーだということは、ありえない。なぜなら上のカードを開いてジョーカーでなかったら、下のカードはジョーカーだとわかってしまう。すると『どちらがジョーカーかわからない』という命題と矛盾するからだ。そうすると上のカードがジョーカーだということも、ありえない。なぜなら先の推論により下のカードがジョーカーではないことがわかっているので、上のカードがジョーカーだということになる。するとやはり『どちらがジョーカーかわからない』という命題と矛盾する」
死刑囚「そんなバカな! 二枚のうち一枚は間違いなくジョーカーなのだから、よくシャッフルすればいいだけじゃないか!」
看守「そうだ。それと全く同じ理屈で、お前の死刑が執行される日は、土曜日か日曜日のどちらかにランダムに決定されるのだ」
死刑囚「…」
かくして、やはり死刑囚は哀れ刑場の露と消えるのである…
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これは10年くらい前にウミガメスレに投入したのですが、不評でした。
エッセンスは、「重ねたトランプのどちらか一枚がジョーカーだが、どちらがジョーカーかはわからない」という命題には、「上のトランプを開いてジョーカーでなければ、下のトランプがジョーカーだ」という暗黙の意味が含まれているということだ。どちらがジョーカーかいつまでもわからないわけではない。
全く同様に、「死刑は土曜日か日曜日のどちらかに執行されるが、どちらの日に執行されるかわからない」という命題には、「土曜日が死刑の執行される日でなければ、日曜日が死刑の執行される日だ」という暗黙の意味が含まれているだろう。死刑執行日がいつまでもわからないわけではないのだ。
気の毒な死刑囚の誤りの原因は、その含意をあえて無視したことではないだろうか?
まあ自分の死刑が執行されるかどうかという瀬戸際では、わずかな望みを託したくなるに違いないけど。
なお野崎昭弘『詭弁論理学 (中公新書 (448))』P183以降の「さまざまな見解」には、「二つの箱AとBがあって、そのうちのどちらか一つに鳩が入っているが、どちらの箱に入っているか当てることができるか?」という形に問題が変形されて出てきます。ただし私の好みとしては、「二つの箱」には順序関係が存在しない(どちらの箱を先に開けるかという必然性がない)という点において、元の問題の等価な変形とは言えないように思えたので「重ねたトランプ」に置き換えました。

詭弁論理学 (中公新書 (448))

詭弁論理学 (中公新書 (448))