しいたげられたしいたけ

人権を守るには人権を守るしかない。人権以外の何かを守ることにより人権を守ろうとする試みは歴史的に全て失敗した

講演会「自民党草案 憲法を知ろう」を聴いたら講師が「はてなー」じゃないかと思うくらいネットでバズった話題が多かった

6月20日のエントリー にチラシの画像を載せた講演会に行ってみた。

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文化会館というのは、こんなところだ。かなりデカいハコモノである。

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入口。

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 大小のホールの他にギャラリーというのが何部屋かあって、多目的で使われている。こんな催しも。

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その一室、こちらが今回の会場。聴衆は50人ほどだった。

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開演直前。講演中の撮影は遠慮しましたもちろん。

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講演は、次のような質問で始まった。

Q. 国民は憲法をまもらなければいけない? ○か×か。

(会場で配布されたレジュメ「自民党憲法草案を知ろう」より)

今日の聴衆はみな知っていた。×が正解だ。現行の日本国憲法九十九条には、次のような規定がある。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

wikipediaより。以下同じ)

それを自民党改憲草案では、次のように変えようとしている。

第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。

(「日本国憲法改正草案 | 自由民主党 憲法改正推進本部」より。縦書き→横書き変換しました。以下同じ)

いらんことですが会場で配布されたプリントは、下記書籍からコピーされたものでした。私はこの本を ユーヤ・ペンギン (id:davidsunrise)さんのエントリー ”改憲阻止したいなら『あたらしい憲法草案のはなし』を読め!“で 知りました。なお著者名「自民党憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合」は「自爆連」と略称するそうです。 

あたらしい憲法草案のはなし

あたらしい憲法草案のはなし

 

 芦部信喜憲法 第五版』には、次のような文言があるという。

そのもっとも重要なねらいは、政治権力の組織化というよりも権力を制限して人権を保障することにある 

つまり権力にタガをはめ暴走しないために存在するのが憲法なのだが、自民党改憲草案は、その憲法も「日本国民が守るべきもの」に変えようとしているというわけだ。

レジュメP2には、長勢甚遠氏の「国民主権基本的人権、平和主義。この3つをなくさなければ本当の自主憲法ではないんですよ。」という発言が紹介してあった。

www.youtube.com

上は最近公開された縮小バージョンで、「はてな」でもBUZZったロングバージョンはこちら。『創生「日本」東京研修会 第3回 平成24年5月10日 憲政記念会館 - YouTube

さらに「稲田朋美氏発言(時期は不詳)」として… これは私は知らなかった。

saigaijyouhou.com

それはともかく、法律家の解説として「わかりやすい」と感じたのが、次のような説明である。

憲法

十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 

自民党改憲草案

 第十三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。

「個人」が「人」に変わっているのが気になるが、今は措く。「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に変わっているのが、法学上の大問題なのだそうだ。

「公共の福祉」というのは、法学的な解釈では「人権以外のもので人権を制限してはならない」とするのが定説なのだそうだ。例えば「戦争は最大の人権侵害」という言い方がある。戦争遂行を目的に人権を制限するなどということがあってはならないというのが、歴史の教訓に学んだ憲法の精神だという。

「人権が人権を制限する」の卑近な例としては、「有名人の不倫は報道すべきか?」というイシューがある。報道する側は「知る権利」を主張するが、報道される有名人の側からしたら「プライバシーの侵害」は立派な人権侵害である。ただしこの議論の結論が、講演中で示されたわけではない。

自民党憲法草案によって、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」という「人権以外のもの」にすり替えられることによって、例えば「政治家の違法行為は報道してはならない」という立法が憲法違反とならず許容されることにはならないか?

自民党憲法草案には、この手の地雷が満ち満ちているという。講師は「地雷」という表現はしなかったけど。別の例としては、家族と結婚を規定した条文。

憲法

第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない 

自民党改憲草案

第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。
家族は、互いに助け合わなければならない。


婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

現行憲法にない条文が付け加えられ「家族が相互に助け合う義務」が国民に課せられることになる。これは「国が生存権を保障」から「家族が生存権を保障」へのシフトにほかならず、「財政の健全化を目的に人権を制限する」(人権以外のもので人権を制限する)ことも可能になってしまうという。

「両性の合意のみに基いて」→「両性の合意に基づいて」と「のみ」が除かれていることも法学的には大問題だそうで、「結婚の義務化」という極端なことも可能になってしまうのだそうだ。

かつて自民党が「女性手帳」というのを配布しようとして、批判を浴びたことがあった。すいません、男性として、この件は失念していました。「男性手帳」というものを作成しようという発想がありえないことを考え合わせれば、「女性手帳」のナンセンス加減は明白だ。

www.huffingtonpost.jp

この流れで講師の口から菅野さんの名前が出た。確かに、いかにも日本会議の考えそうなことだと思った。

togetter.com

そして のいほい さんの指摘の通り、この件に関しては自民党日本会議と立場を異にする者であっても、大いに自らを省みる必要を感じる(講師は「すがのさん」と呼んで「のいほいさん」とは呼ばなかったけど。当然か)。

なぜメディアは日本会議を報道してこなかったのか

日本会議って僕自身のことかもしれない。

2016/07/01 11:36

b.hatena.ne.jp

長くなったので途中を省略して結論を急ぐ(中略した部分には憲法第九条の議論も含まれるのが心残りだ。機会があれば別途エントリーを起こすかも知れない)。

講師が最も問題視していたのが、現行憲法にない「緊急事態条項」の創設である。これは「お試し改憲」として与党他改憲勢力がプッシュする向きがあるが、これがとんでもない代物なのだそうだ。

自民党改憲草案

第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

「その他」というのが曲者で、日本は自然災害大国であり、先般の熊本地震東日本大震災のような災害は、いつでも起きうることである。そうした口実にかこつけて「閣議にかけて」すなわち選挙も国会の議決も必要としない閣議決定のレベルで、発動させることができるというのだ。

緊急事態条項が発動されると、どうなるかというと…

自民党改憲草案

第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

つまり自民党改憲草案が現実となった暁には、内閣総理大臣は晴れて名実とともに「立法府の長」となれるわけだ。

www.youtube.com

これは私の連想であって、講師はそんな品のないことはおっしゃいませんでしたよ。講師は「三権分立の破壊」であり、「地方自治の否定」であることを指摘したにとどまる。何よりそれがあかんのだが。

ここで、当然連想されるのは麻生太郎氏の「ナチスの手口に学べ」発言であろう。ぐぐったけどどれを貼りゃいいんだ? トップに出てきたこれでも貼るか。

diamond.jp

講師は、法律家らしくエキセントリックなことは口にしなかった。ただ他国の緊急事態条項との比較を淡々と述べた。冷戦のさなかに定められたドイツ基本法にも緊急事態条項はあるそうだ。しかし、ものすごく限定的で、司法権も停止しないとのこと。

一言で言って、自民党改憲草案は、内閣が何でもできる国にしようというものだそうだ。

レジュメのラストには、せんだって「はてな」でホッテントリ入りしたこのマンガのP183が貼られていた。

seoul-life.blog.jp

著作権法32条の範囲で、うちも貼らせてもらっていいかな? 上のサイトからの孫引きだけど。

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『まんが・わたしたちの平和憲法』1988年創価学会婦人部平和委員会編 より

講演後の質疑応答で、講師さんはネットヲチャであることは確かだがソースは主にツイッターであることが判明した。私は法律は門外漢だが、「はてな」ソースでもまあまあ主なイシューにはついて行っているようなので少し安心した。ただし『芦部憲法』くらいは読んでおかなければならないかも知れないと思った。一応、入手だけはしているけど。

追記:

4月末にこんな記事が公開されていたことに遅まきながら気づいたので、リンクを追加します。かなり長い記事ですが、見出しを辿るだけでもおおまかな論点が把握できます。

webronza.asahi.com