しいたげられたしいたけ

拡散という行為は、元記事の著者と同等以上の責任を拡散者も負う

未払い給与60万円余を法律の非専門家が法律に基づいて取り戻そうとした雑誌記事(後編:少額訴訟編)

かつてつき合いの税理士さんから無料でいただいていた月刊「マネジメント倶楽部」の2007年1~3月号に掲載された「やってみました こんなこと」という連載のうち、今回は第3回から一部を引用、紹介させていただく。

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本題に入る前に、前回エントリーから未払賃金立替払制度のリンクを再掲。

Ⅰ未払賃金の立替払制度の概要

リンク中の「リーフレット」(PDF)というのが、コンパクトにまとまっていてわかりやすいと思う。

リーフレットから、「3 立替払の額」の表を引用する。前回のエントリーに引用した9年前の記事中にある表と、額が変わっていないことを確認するためだ。これもデフレの一形態なのか?

退職日における年齢 未払賃金総額の限度額 立替払の上限額
45 歳以上
30 歳以上 45 歳未満
30 歳未満
370 万円
220 万円
110 万円
296 万円 (370 万円×0.8)
176 万円 (220 万円×0.8)
 88 万円 (110 万円×0.8)

立替払の上限額が、年齢によって3倍以上も開きがあることが目を引く。よく言われることではあるが、日本の制度設計は家族の存在を強く想定しているからであろう。ライフスタイルが多様化する一方の今日において、法の下の平等の観点から問題はないのかと疑問が浮かぶところである。45歳以上であろうと30歳未満であろうと、賃金が支払われなかったら困ることに変わりはない。

とまれ、この手の制度は使う機会のない方がいいに決まっているが、存在自体は知っておくべきだと思う。給料を払わない会社に長居をすれば、自分の損にしかならないということでもある。

今回は連載3回の、いよいよ少額訴訟に打って出るくだりを。 

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「マネジメント倶楽部」2007.3 P10

一部をテキスト化して引用する。

少額訴訟とは
少額訴訟とは、60万円以上の金銭の支払いの請求を求める際に簡易裁判所で行う特別な訴訟です。
通常の訴訟と異なり、弁護士に頼まなくても個人で対応することも可能な裁判といえます。原則として1回の期日で判決が出るため、簡易で迅速な裁判
です。これまで泣き寝入りすることが多かった少額の金銭の請求について有効な手段となっています。
訴訟の目的の価格に応じて、手数料を印紙で納めることになります。今回は60万円でしたので、6,000円の印紙を購入しました。 

 少額訴訟が「通常の訴訟と異なり、弁護士に頼まなくても個人で対応することも可能」という部分は正確ではなく、通常の訴訟でも弁護士なしで可能だ。通常の訴訟でも少額訴訟でも、訴訟を行うには専門知識が必要になるため、プロに依頼したほうが安全ということだ。

少しスキップして、再び引用。

当日、依頼人の元同僚が証人として参加し、私も傍聴に駆けつけました。ドキドキしながら、「いざとなったら傍聴席からなにかしらサインを送れないか」などと考えていましたが、被告人欠席のうえ、証拠書類もそろっていたため、あっという間に勝訴となり拍子抜けしました。

ご存知の方も多いと思うが、欠席裁判というのは絶対にNGである。欠席したほうが100%敗訴、出廷した方の言い分が100%認められるからだ。

これを悪用して、法的知識のない相手に道理のない少額訴訟をふっかけ、相手が欠席することを見越して裁判所に自分の言い分を認めさせるという、とんでもない悪質商法が一時期猖獗したことが報道された。

連載3回の2ページ目、すなわち連載の最後の部分である。

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「マネジメント倶楽部」2007.3 P11

少し長くなるが、テキスト化して引用する。

その後、振込みがあったという連絡もないまま2週間が経ちました。裁判所から判決を下されたうえ、内容証明を送られたにもかかわらず、対応しないつもりか?と疑念をもっていると、内容証明の保管期限を過ぎたため、郵便局から依頼人に戻ってきたという連絡がありました。
内容証明が戻ってきた?そういえば、夜中だけなにかしら仕事をしているという労働基準監督署の担当官の言葉が思い浮かびました。夜中…。
あたり前ですが、郵便局は夜中には配達をしません。民営化されようともこれはどうにもならないでしょう。郵便局まで取りに来るようにと被告が言われていても、そのような状態の会社宛に届く内容証明に会社にとって有利なものがあるはずもありません。つまり、その会社の社長は意図的にそのような郵便物の受取りを「拒否」していたのです。やむをえず、今度は普通郵便で同様の書面を送りました。振込期限は9月末です。
予想どおり、といっては語弊がありますが、結局、10月になっても振込みはありませんでした。相手は相当の強者です。こうなると残された道は強制執行となります。まさかここまで戦う社長とは思ってもいませんでした。深みにはまったかな、と我が身を呪っても遅きに失しました。
少額訴訟強制執行を行うには、判決のほかに送達証明書が必要となるため、それを簡易裁判所に申請します。書類がそろったところで、今度は地方裁判所強制執行の申立てを行います。少額訴訟の提起は簡易裁判所に提起しますが、強制執行地方裁判所に申立てをすることになります。
ほほ破綻している会社にどのような資産が残されているのか、見当もつきません。とはいえ、それ以外に手段もありません。「パカにされている気がする」と憤る依頼人は、ためらうことなく動産執行を選択。11月上旬に地裁に執行申立を行いました。あたり前といえばあたり前ですが、裁判所の判決があっても裁判所が債権を取り立ててくれるわけではなく執行を依頼するにも別料金がかかります。予納金として35,000円を払い込み、執行を待ちます。
ここまでやれば、今度こそ何とかなる。そんな淡い、そして甘い期待を多少だけ抱きつつ、結果を待ちます。執行の申立てから12日後、執行が行われました。所要時間は約6分でした。その翌日、「執行不能調書」が届き、まさに万策尽きた状況となりました。調書には「債務者の占有する動産は換価の見込みがない」と記載されていました。
35,000円の予納金の残31,005円が依頼人に振り込まれ、またも空振りの結果となったわけです。まさに泥棒に追銭です。強制執行にかかる費用の分だけよけいに「損」をしたことになります。
残された道は通常訴訟しかありませんが、62万円程度の未払い賃金のために、弁護士を雇って裁判をするのは経済的にも心理的にも困難です。結論からすると、あきらめるしかありませんでした。
己と法律の無力さを痛感した次第です。法は弱い者の味方だと思っていたのに…。約10ヵ月にわたる苦労は結果的には実りませんでした。

この記事には書いてないが、裁判所の強制執行に関しては、次のような問題点も指摘されている。

1週間ほど前の、asahi.com 記事より引用する。

www.asahi.com

記事の前半より一部を引用。

裁判などで確定した賠償金や子どもの養育費が不払いにならないように、支払い義務がある人の預貯金口座の情報を金融機関に明らかにさせる仕組みを法務省が導入する。裁判所による強制執行をしやすくする狙いがある。今秋にも、法相の諮問機関「法制審議会」に民事執行法の改正を諮る見通しで、2018年ごろの国会提出をめざす。 

今の制度では、賠償金などの支払い義務が確定した人(債務者)の口座を裁判所が強制的に差し押さえる場合、支払いを受ける人(債権者)が自力で、その口座のある金融機関の支店名を特定する必要がある。だが、犯罪被害者が加害者に請求する場合など、相手との接点が少ないと支店名を特定するのは難しかった。

「そんなことも、まだやっていなかったんかい!?」というのが、率直な感想である。これが税金であれば、あらゆる金融機関は全面的に税務署に協力する。例えば、預ける銀行を遠方の支店に変えたくらいでは、相続税から逃れることはできないのだ。「官に甘く民に厳しい」というのも、日本の制度に関してよく言われることである。

記事の後半より。半分ほどは、無料ログインが必要な部分からである。

法務省の見直し案では、債権者は、債務者が住む地域の地銀など口座がある可能性がある金融機関ごとに確認を裁判所に申し立てられる。裁判所は各金融機関に照会。口座がある場合はその金融機関の本店に対し、差し押さえる口座のある支店名や口座の種類、残高などを明らかにするよう命じる制度を新たに設ける。債権者にとっては、債務者が口座を持つ金融機関名が特定できなくても、見当がつけば足りることになる。
また、民事執行法には債務者を裁判所に呼び出し、自分の財産の情報を明らかにさせる手続きが定められているが、債務者が来ず開示に応じないなど、実効性が課題となっていた。この手続きを経ずに差し押さえを申し立てるケースも多いことから、見直しでは、応じないときの制裁を強化し、現在の「30万円以下の過料」から、刑罰を科すことも検討する。

法案提出は2年も先とのことであるが、それでも改正が少しでも実効性のあるものとなることを、祈らずにはいられない。

「マネジメント倶楽部」の連載は、こうして非常に後味の悪い終わり方をしている。ただし記者がいろいろやってくれたおかげで、結果的に、もし給与が未払いに陥った場合には、どのような法的手段があるかが網羅されたことになる。

すなわち…

労働基準監督署への調停申し立て

・未払賃金立替払制度

少額訴訟簡易裁判所

強制執行の申請(地方裁判所

である。

ただしこれらの制度には穴があり、相手企業の社長に悪意があったり、担当官にやる気がなかったりすると、たちまち機能不全に陥ることもわかった。

そもそも一連の弊エントリーの発端にさかのぼると、学生を「個人事業主」として業務委託契約を結ばせる家庭教師バイト派遣業者に関する伝聞や報道の話だったのだ。前回、今回と話題にした正社員(多分)のケースとは本質において異なるのだ。

もし、委任契約や請負契約で働いているアルバイトやパートタイマーが、賃金未払いという目にあったら、上記の法的手段の全てが利用できるものだろうか?「労基署からは門前払いされかねない」という印象は、私の偏見であってほしいと切に願う。

そんなことはないに越したことはないが、万が一賃金未払いの憂き目を見たら、直ちに法律の専門家にご相談を! そして、そのような雇用主のところに長居は無用ということで!