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黄金比の美がわかりやすい姿で目の前に示されるとは限らないという一例

あくまで私の観測範囲であるが、黄金比が静かなブームのようだ。静かなブームって胡散臭い言い方だね自分で言っといてなんだが。

発端はデイリーポータルZのこの記事だったと思う。

portal.nifty.com

それを受けてかどうか、「頭の悪い人の絵」が黄金比に沿って描かれているというツイートが流れたらしい。私は残念ながら元ツイートを見ることはできなかったが、なすねむ@ONASUNEM ‏さんのこのエントリーで存在を知った。なお例によって余計なことを言うと、「頭の悪い人の絵」こそが静かなブームかも知れない。

www.nasnem.xyz

さらにその後、本職のアーティストである 三木崇行(id:takayukimiki)さんが、詳しいエントリーを公開されたので、リンクを貼らせてください。

www.mikinote.com

しかし実は、自然界の黄金比がわかりやすい姿で目の前に示されているとは限らない。三木さんのエントリーに「ヒマワリの種やロマネスコカリフラワーの配置は黄金比でできている」という意味の文章が出てくる。これがどういうことかというと、少し説明が要るのだ。ネタにマジレス、カコワルイ(死語?)というそしりを受けるのを覚悟で、エントリーを起こしてみたい。

ただし以下に述べる内容は、木村俊一『連分数のふしぎ (ブルーバックス)』7章の、出来の悪い要約にすぎない。図も同書からの引用である。「引用の4要件」は満たすようにするつもりだが、どっかから怒られたら本エントリーは消します。つか 去年の12月3日付拙記事 にも書いた通り、同書は間違いなく名著ですので数学好きの方には一読をお勧めします。

連分数のふしぎ (ブルーバックス)

連分数のふしぎ (ブルーバックス)

 

 次のような問題を考える。真っすぐな一本の木の幹から、複数の葉が出るとする。簡単のため葉は円形で近似する。できるだけ陽光を葉に受けるためには、葉どうしは重ならないようにしなければならない。

そこで、葉の出し方に、次のようなルールを定める。

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上掲書P216より。図の順番を上→下から左→右に変更しました

幹から1枚目の葉を出したら、1枚目の葉からθの角度で2枚目の葉を出す。3枚目の葉は2枚目の葉からやはりθの角度で出す。以下n枚目の葉まで、同様に繰り返す。

幹からn枚目の葉の中心までの長さは、√nとする。このように置くと、面積あたりの葉の枚数を一定にすることができる。例えば幹を中心とする面積10πの円を描くと、円の中に10枚の葉の中心が含まれ、幹を中心とする面積100πの円を描くと、円の中に100枚の葉の中心が含まれる、というわけだ。

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θが(有理数)×π の場合、スポーク状の重なりが出現する。上掲書ではそれを「腕」と表記している。θ = 1/12π = 30° として葉を100枚つけた場合、葉の形状は下図のようになる。

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上掲書P218より

上掲書P218~222には、θ = 64/201π ≒ 114.62° の場合の考察と図示もおこなわれている。最終的には分母の201に相当する201本の腕が現れるのだが、それ以前の段階で、3本、あるいは22本の、でんでん太鼓というか巴状の腕が現れるのだ。

これは64/201という分数が、連分数形式で表示すると一次近似で1/3、二次近似で7/22により表現できることに由来する。本当はこのあたりが上掲書の主題にかかわる部分なので、式を示しながら詳述すべきだろうが、それをやると全文引用に近くなってしまうので、今回のエントリーでは省略する。

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 ではθを無理数にすればいいかというと、そう簡単なものではない。θ = π×π として、100枚の葉をつけた場合が、下図である。くっきりとした7本の腕が現れる。

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上掲書P223より

葉を1000枚つけると、下図のようになる。16本ずつまとめて数えているが、合計で16×6+17 = 113本の枝が現れることが示したかったわけだ。

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これは次のように説明できる。πを連分数で表示すると、無理数だから無限連分数になるが、次のようなものになる(P226)。

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無限連分数表記を途中で打ち切ると、有理数近似となる。その際に、打ち切る分母にある数字が大きければ大きいほど、精度のよい有理数近似が得られることになる。分母が大きいということは、ゼロに近いということだからだ。πの場合、一次近似の 22/7 あるいは三次近似の 355/113 が、πの精度のよい近似を与える。葉の枚数によって現れる7本あるいは113本という腕の数は、これらの有理数近似の分母に対応する(P225)。

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そろそろ結論を急がねばならない。ではどうすればいいかというと、「有理数による近似精度が最も悪い無理数」、すなわち黄金比を使えばいいのだ。

黄金比の無限連分数表記は、次のようになる。

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つまり連分数表記をどこで打ち切っても、分母に残る数字は最小の正整数である “1” である。これは、黄金比の有理数による近似は常に精度が最も悪くなることを意味するのである。

これまでと同様の手順で、100枚の葉をつけた状態が、下図である。有理数による近似の精度が悪い=腕が見えづらい=葉の重なりが少ないってことで、葉の重なりが最も少なくなる配置が得られた。

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上掲書P228より

では逆に、こうした配置が黄金比に基づいているかを判定するには、どうすればいいだろう? 縁の中心を結んで無理やりに腕の姿を浮かび上がらせ、その本数を数えればいいのだそうだ。

これは右巻きに数えた場合。13本の腕を数えることができる。ただしすべての腕が幹(中心)に到達していないことに注意。

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上掲書P229より

これは左巻きに数えた場合。23本を数えることができる。

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上掲書P229より

これらは黄金比の連分数近似21/13、34/21に対応している。黄金比の連分数近似はフィボナッチ数列の比になるので、腕の本数はフィボナッチ数となるのだという(P230)。

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最後に、1000枚の葉をつけた場合の図を引用。

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上掲書P230より

これらも、左巻きの腕の数、右巻きの腕の数を数えると、55、89と、フィボナッチ数が現れる。腕が幹に届いていないから、葉の枚数によって腕の本数が変わるのだ。

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いずれも上掲書P231より

連分数のふしぎ』7章は、著者が拾ってきた松ぼっくりの鱗片〔りんぺん〕の渦巻きの数が、まさしくフィボナッチ数となっていることから説き起こされる。またP232には、伝聞の形であるがヒマワリの種の渦巻きの本数が89本あったという話が紹介されている。これもフィボナッチ数である。ほぼ同じ大きさのタネを、一定の面積の中にもっとも稠密に格納するためにも、自然は黄金比に基づく配置を採用しているようだ。

 

追記:

id:bython-chogo さんが Python を用いてプロットの様子をアニメーション化されましたので、勝手ながらリンクを貼って紹介させてください。

bython-chogo.hatenablog.com

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