しいたげられたしいたけ

空気を読まない、他人に空気を読むことを要求しない

森達也『ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー』(角川書店)

ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー

ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー

五つ星!
昔、亡命中の王族とか革命家とかはどうやって生計を立てていたのかと不思議に思ったことがあるのだが、彼らに国内に一定の支持基盤があれば政権が変わって彼らが国の中枢に復帰したときに取り入ることを期待して(いわば宝くじでも買う感覚で)金を出してくれる外国政府や篤志家が、いくらでもいるんだね。イラクのフセイン政権が崩壊した後、米英に亡命していたイラク人が大挙帰国して新政権の要職についたことは記憶に新しい。
とりわけこの本の主人公クォン・デの場合、ベトナムのグェン王朝の直系で正当な王位継承者というだけあって、日本における彼のパトロンは後に首相になる犬養毅や玄洋社の頭山満など超大物揃いである。
だが悲しいかなクォン・デ本人にフランスによる母国の植民地支配を覆し新国家を建設しようという力量と気概が備わっていたかというと、森氏の筆を信じる限り疑問で、はっきり言うと「これじゃ引きこもりのダメ男じゃないか!?」という感じである。
まあそこまで言うのは酷というもので、彼の盟友にして「ベトナムの坂本龍馬」(←本書p41の表現)革命家ファン・ボイ・チャウのような不撓不屈の士であればともかく、普通の人間か普通よりちょっと優秀なくらいの人間であれば、母国から切り離されて異国の地にぽつんと置かれたら、何ができるというのだろう?そんな状態で「一国の政府を転覆させ新しい国を作れ!さあ作れ!」と言われて、できますか?
この本の後半は日中戦争の勃発、太平洋戦争の開戦、終戦、そしてベトナムの分断およびベトナム戦争の勃発と激変する国際情勢の中で、果たしてクォン・デが母国ベトナムに戻れるのかどうかだけが焦点となる(ように読者の私には思われた)。森氏は老革命家ファン・ボイ・チャウの最期の言葉として、次のような言葉を喋らせるのである(p215)。

日本よ。おまえは本当に今度こそ、私たちの期待に応えてくれるのか?日本よ頼む。最早おまえに多くは望まない。せめて殿下を妃の許に返してくれ。そしてもし、まだ余力があるのなら、我が国を独立へと導く力を今度こそ与えてくれ。

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