- 作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2002/11/06
- メディア: 単行本
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あるいはまた、被収容者は夕方、診療所で押しあいへしあいして立っていた。彼らは、怪我か飢餓浮腫〈ふしゅ〉か熱のために、二日間の「静養」を処方してもらえないだろうか、そうすれば、二日は労働に出なくてすむのだが、というはかない望みを追っていた。そこに十二歳の少年が運び込まれた。靴がなかったために、はだしで雪のなかに何時間も点呼で立たされたうえに、一日じゅう所外労働につかなければならなかった。その足指は凍傷〈とうしょう〉にかかり、診療所の医師は壊死〈えし〉して黒ずんだ足指をピンセットで付け根から引き抜いた。それを被収容者たちは平然とながめていた。嫌悪も恐怖も同情も憤りも、見つめる被収容者からはいっさい感じられなかった。苦しむ人間、病人、瀕死の人間、死者。これらはすべて、数週間を収容所で生きた人間には見慣れた光景になってしまい、心が麻痺してしまったのだ。
(p35)
ほんの一例。こういった圧倒的な事実の描写の前に、私は語るべき言葉を失う。そもそも本ブログで「一行書評」などと称して乱暴な要約を試みることは、すべてオリジナルの価値を貶める行為だと承知しているつもりだが、本書を読了した際には特にそれを強く感じた。
しかし精神科医である著者は、そうした環境の中で「語る」ことを求められることがある。著者の語った言葉はp137〜140に収められている。私にはできない。著者の境地は、今の私からは遥かに遠い。これを読んだ皆さん、どうか機会があったら、どうかご自分で手にとってみてください。こんなことをブログに書くのは初めてで、多分最後です。
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