しいたげられたしいたけ

空気を読まない 他人に空気を読むことを要求しない

浅田次郎『勇気凛凛ルリの色 四十肩と恋愛』(講談社文庫)

勇気凛凛ルリの色 四十肩と恋愛 (講談社文庫)

勇気凛凛ルリの色 四十肩と恋愛 (講談社文庫)

著者が週刊誌にこのエッセイを連載している期間に、直木賞はじめ数々の文学賞を総なめにすることを、我々はすでに知っている。業界人でも何でもない私は直木賞なんぞに何の権威も感じるものではないが「どれ、おっさんの喜ぶところを見てやるか」てな感じで、本書を手にとってみた。
残念、本書に収録された時点では、著者はまだ直木賞を獲得していない。
今からちょうど10年前、阪神大震災とオウム事件の記憶も新しいころである。そして連載中に、沖縄で米兵による十二歳の少女の強姦事件が発生する。本書収録の最後尾あたりで、当時の大田昌秀沖縄県知事の米軍用地強制使用代理署名拒否に対して、最高裁により敗訴の判決が下される。
著者はそのたびに怒り、わめき、悲憤慷慨する。オウムに殺された坂本龍彦ちゃんを思い描いて、鉄道自殺を図り少年に止められた阪神大震災の被災者の老人を語って、「私のような犠牲者を二度と出したくないから、きちんと訴えます」という米兵の暴行の被害にあった少女の言葉を書き写して…
このベストセラー作家の秘密を、もう一つ見つけたような気がした。「このおっさん、ひょっとして自分の痛みと他人の痛みを区別することができないんじゃないのか?」
唐突にそう思いついたとたん、涙がどっと溢れ出して、なかなか止められなくて苦労した。