🍉しいたげられたしいたけ

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再読

宮崎市定『大唐帝国―中国の中世』(中公文庫)

今回は勢いで、2〜3日で通読してしまった。初めて読んだときには、休み休み、つっかえつっかえ、半年くらいかけてようやく通読した記憶がある。それから陳舜臣の『中国の歴史』シリーズ(講談社文庫)などとともに手元に置いて、中国史関係の本を読むたびに、そこかしこつまみ食い式に参照していたのだが。
タイトルは『大唐帝国』だが唐代の占めるページは全体の1/4程度にすぎず、本書のカバーする範囲は三国〜六朝から唐滅亡後の五代まで、なんと足掛け八世紀にも及ぶ。
初読のときにやたらと時間がかかったのは、桓温*1、苻堅*2、劉裕*3、拓跋珪*4など、夥しい馴染みのない人名と格闘しなければならなかったためである。今あげた人名はいずれも中国のいわゆる五胡十六国〜南北朝期におけるVIP中のVIPであり、またこれらの人名を一旦覚えてしまえばこの時代に関する記述はとても興味深く読めるようになるのだが、日本でこれらの人名はどのくらい知られているのだろうか?恥ずかしながら私は全く知らなかった。
しかし、毎度ながらこの著者の分析は明快で面白い。戦争は古今東西を問わず、とてつもなく金を食う。また戦争がない間も、軍隊を維持するためには兵に飯を食わせなければならない。三国志における曹操の抜群の強さの秘密は、屯田兵というシステムを導入したことにあったという(p58〜)。すなわち戦乱で荒廃した土地を兵に耕作させ自給させるという政策である。曹操は袁氏を打倒すると、袁氏に従っていた数万に及ぶ兵を皆殺しにしてしまったという。職業軍人は軍人以外の仕事には向かないため、無理やり帰農させてもすぐに土地を離れて流賊となるからだという(p59)。
この著者の手にかかると、諸葛亮の役割の分析も、一味もニ味も違ってくる。群雄割拠すなわち軍人主権の小国家が乱立する状態にあっても、行政、あけすけに言えば収税システムの運営は欠かすことができない。すなわち文人官僚は、なくてはならない。そして文字を書き共通語である宮廷語を操る彼ら文人官僚は、小国家の垣根を軽々と越えサロンを構成する。諸葛亮は文人官僚のサロンにおいて、いわば敏腕外交官の役割を果たしたのだという(p65〜)。
そして著者は本書巻末において、膨大な耕作放棄地の存在、漢代と唐代の戸籍の比較に現れる人口の減少など、本書中に示された様々な根拠の上に、人類の歴史が進歩の一直線を歩んでいるのではなく、王朝の寿命にほぼ等しい長大な周期を持つ景気循環曲線を描くという壮大な仮説を提示するのである(p428〜)。こうなるともう、へぇ〜、としか言えません。
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*1:東晋の有力武将

*2:前秦国王、淝水の戦を戦う

*3:東晋の武将、後に南朝宋の皇帝・武帝となる

*4:代国王、後の北朝北魏の皇帝・道武帝