しいたげられたしいたけ

空気を読まない 他人に空気を読むことを要求しない

北村薫『盤上の敵』(講談社文庫)

盤上の敵 (講談社文庫)

盤上の敵 (講談社文庫)

猟銃を持った殺人犯が、民家に立てこもり家にいた女性を人質にとった。家の主であるテレビマンの末永は、心の病を抱える妻の窮地を救うため、とっさに考えついた驚くべき巧妙な計画を実行に移す…
北村薫はネ申か?とにかくディテールがすごいのだ。立てこもり犯の極悪非道さを表現するために費やされる第一部第一章、主人公・末永の仕事ぶりを描く第一部第三章など、その話だけで一編の小説になりそうなエピソードが惜しげもなく費やされる。油が乗り切った時期の松本清張も、そんなことをやってたと記憶しているが(残念、タイトル失念!)そういう真似ができる作家は、そうそう多くはないと思う。なお、全体に救いのない暗いトーンの本書の中で、「番組の企画で主婦の夢を叶える」という第三章は、個人的にはすごく好きです。
なによりメインのトリック!主人公が計画に必要な「あるもの」を友人から借りる第三部第五章など「何かあるな」「何か企んでるな」と思わせる伏線はバラ撒かれていたが、第三部の後半から「中入り」と題する章を挟んで第四部に至るどんでん返しの連続には、これはやられた!何か来るなと予想して身構えていたんだけど、やられた!
ところで本書の重要な登場人物である兵頭三季は、末永の妻・友貴子のことが好きだったんじゃないだろうかという気がして仕方がないのだが…作者はそのようなことは一切書いていないのだけど、自分が好意を抱いた対象をメチャクチャに壊してしまいたいという感情は、案外誰もが持ち合わせている人間の心の暗い面の一つではないだろうか?