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酒井啓子『イラクは食べる―革命と日常の風景』(岩波新書)

イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書)

イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書)

ご存知、現代イラク研究の第一人者による最新刊だが、今回は各章の扉と末尾に、イラクの伝統料理や家庭料理をレシピつきで紹介するという趣向を加えている。イラクで現に営まれている人々の生活の雰囲気を伝えようという工夫なのだとは思うが、どうにも出口を見出せないイラクの政治状況のレポートの部分とは、正直木に竹をついだような印象が否めない。
2005年1月に実施された米ブッシュ政権言うところの「フセイン政権崩壊後の、はじめての自由で民主的な選挙」制憲議会選挙では、米政権の期待した世俗的親米リベラル政党は伸び悩み、過半数を勝ち取ったのはシーア派の「イラク統一同盟」だった(p40〜41)。イラク統一同盟は、イラン亡命中のイラク人が亡命先で結成し今もイランとの親密な関係を保つSCIRI(イラク・イスラーム最高革命評議会)、主にイラク国内で活動してきたダアワ党、それに2003年のイラク攻撃後は米英軍相手に武装闘争を繰り広げのちに与党に参画したサドル潮流などから成る混成部隊である。
第二党の「クルディスタン同盟」は、名前の通り北部クルド人の政党。この結果を見て、フセイン政権下では優遇され制憲議会選挙では政党としての参加をボイコットしていたスンナ派は、2005年12月の第一回正式選挙には「イラク合意戦線」という政党を結成して参加し「イラク統一同盟」「クルディスタン同盟」に続く第三党の座を占めた(p111〜112)。親米世俗主義政党はさらに票を減らした。著者は、米主導の多国籍軍による占領・統治がイラク政界の宗派別再編という結果を生んだと結論づける。
本書第4章によれば、占領軍や占領後に誘致された海外資本の「復興企業」は、未だ現地の人々と十分なつながりを持つことができず、必要な物資の調達も本国からの持ち込みに頼ったりしているという(現地に根を下ろせないというのは由々しい弱点だよね)。石油生産量も'04年から'08年まで日産200万バレル台と横ばいのままだ(p186〜187)。各章で言及されるイラクの庶民の直面させられている迷惑は、これはもう簡単に要約できるようなものではない。
つまりイラクの情勢は安定とは程遠いもので、しかるによって著者によるレポートも決して本書が最後ということにはならないだろう。その意味で、「イラク料理の紹介とともに」という趣向は、個人的にはあまりいいとは思わなかったけど、バリエーションの一つとして「それもアリ」なのかも知れない。
追記:(5/4)
「サドル潮流」(報道では「サドル派」)は、その後('07年9月)政権を離脱している。