🍉しいたげられたしいたけ

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池内了『疑似科学入門』(岩波新書)

著者は疑似科学を三種類に分類している。
《第一種疑似科学》とは、「占い」「血液型」「超能力」など、明らかに科学的でないもの。
《第二種疑似科学》とは、「永久機関」「水の記憶」「マイナスイオン」など、科学的装いをしていながらその実態がないもの。
本書によると、第一種疑似科学や第二種疑似科学でも、血液型による人間分類は日本のような隆盛は外国では見られず、逆にアメリカで盛んだが日本ではあまり流行らないものに「インテリジェント・デザイン」「UFOに拉致されたと主張する人々」「永久機関」があるという。
本書の白眉は《第三種疑似科学》すなわち「複雑系であるがゆえに科学的に証明しづらい問題について、科学的な外見を装いながら当事者に都合のよい結論に誘導しようとする言説」を論じた部分だと思う(第4章)。
これまで科学は、系を単純化し理想状態にすることによって諸法則を導き大きな成果を挙げてきた。これを「要素還元主義」という。ところが系が複雑になると、要素還元主義が通用しない問題がいくらでもあることがわかってきた。ポアンカレによる三体問題における混沌運動の発見(p126)はその嚆矢であり、コンピュータを用いた数値シミュレーションにおける「バタフライ効果」(p128)はその典型である。そして、気象、地球環境、人体、社会システムなど、我々に身近な現象は、すべて「複雑系」なのである。
例えば地球温暖化は、二酸化炭素ほか温室効果ガスの排出が増えた「結果」と見るのが主流であるが、その一方で、地球が(何らかの原因で)温暖化したので、地中や海水中に蓄えられら二酸化炭素が放出されたと「原因」と「結果」を逆に見る意見も存在する。ところが地球がまさに複雑系であるために、定量的な結論を得ることは絶望的に困難である。そこに各国政府や産業界などの利害・思惑がからんで、問題はますます複雑化する。
パラドックスのようだが、科学の進歩につれて、科学と疑似科学のグレーゾーンはどんどん広くなっているようなのだ。
著者は、このような問題に対して「予防措置原則」の導入を提唱する(p145〜)。地球温暖化の例をとれば、もし主流の見方が正しければ二酸化炭素排出量の規制を行わなかった場合、破局的な未来が待っていることになる。仮に主流に反対する立場が正しかったとしても、排出量規制の人類社会に与える悪影響は、地球温暖化の暴走が起きてしまった場合に比べればはるかにましである。
「終章」より印象に残った言葉。

 科学とは、知れば知るほどわからないことが増えてくるものである。自分は何も知らなかったと思い知らされるのが科学者の日常と言える。つまり、研究者は研究を極めれば極めるほど謙虚になる。自分の無知さを知って謙虚にならざるを得ないのだ。その観点から言えば、知ったかぶりをする科学者はもはや研究をストップしており、それまでに得た知識を誇っているに過ぎないと言うことができる。もはや過去の人であり、その知識は時代遅れになっている可能性が高いのだ。

(p190)
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