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吉川忠夫『劉裕―江南の英雄宋の武帝』(中公文庫)

劉裕―江南の英雄宋の武帝 (中公文庫)

劉裕―江南の英雄宋の武帝 (中公文庫)

三国志本は氾濫しているのに、なぜか次の時代の五胡十六国と南北朝を扱った和書は少ない。「あとがき」によると「劉裕について書かれた専著」は本書が初めてとのこと(p219)。
三国を統一した西晋は、統一後ほどなく「八王の乱」と呼ばれる内乱を起す。それにつけこんだ異民族に華北を奪われ、華南の建康(南京)を首都に東晋という亡命政権を建てる。爾来一世紀、華北回復を悲願に掲げるものの、多くの特権を握る貴族中心の政治が営まれる。
本書の主人公の劉裕は武人である。武人同士のトーナメントを勝ち抜き、個々の貴族ともし一対一で対峙すれば誰も対抗できない権勢を持つに至るが、貴族が束となった集合体には手をつけることができない。劉裕は、束の間とはいえ洛陽と長安を異民族の支配下から奪回するなど、数々の功績を足がかりに、ついには東晋の譲りを受け南朝宋を建国する。その後、中国南部には、武人出身の皇帝を貴族が担ぐという王朝が次々と交代する…