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林壮一『ドキュメント 底辺のアメリカ人 オバマは彼らの希望となるか』(光文社新書)

ドキュメント 底辺のアメリカ人 (光文社新書)

ドキュメント 底辺のアメリカ人 (光文社新書)

アメリカという国は、庶民にとってはどうも暮らしやすい国ではないらしい。本書p15によると「救急車を利用すれば8500ドル、救急病棟に運ばれれば3000ドル、たった2枚のレントゲンで500ドル、あるいは花粉症の診断を受けると780ドル」というとんでもなく高額な医療費を請求されるという。他の国のような健康保険制度がないためである。
本書は大統領選キャンペーン最中の全米を、マイノリティや貧困層をターゲットにインタビューを行いながら、西のネヴァダを起点に最終章のニューヨークまで、ジグザグはあるがおおざっぱに言って西から東へと旅しつつレポートしたドキュメント。ページが時系列の順になっているので、初めの頃はヒラリーの評判が意外に良く、それが徐々にオバマを推す声に収斂してゆき、マケインが副大統領候補にペイリンを指名した時点で両陣営の支持率が一時的に逆転するが、ペイリンが数々の失言で馬脚を現すにつれ「勝負あった」の感があり、大統領選本選のクライマックスに至るという流れが、臨場感たっぷりに再現される。
それにしても、改めて驚くのはブッシュの評判の悪さである。なぜこれほどまでに悪評ばかりの人物が、再選まで果たしたのか?現在から過去を振り返ってものを言えば何でも言えるかも知れない。だがアフガン戦争とイラク戦争のツケをアメリカが支払うのは、これからが本番ではないのか?私事だが、私がうつを発症したことは、二度目の退職と当時の交際相手との破局という不快な出来事が短期間に重なったこととの因果関係を強く疑っている。戦場から帰還した兵士のPTSDは、経験のない私には想像するしかないのだが、私の体験など恥ずかしくて比較にならないほど過酷なものであるに違いない。そして彼らが適切な治療を受けるために必要な医療コストは、いったいどれほどの額に上るのだろうか?
私も個人的にはオバマの大統領就任を心より祝福する立場であるが、同時に、新大統領の直面する数々の課題の深刻さを考えると、めまいのする思いである。
本書p141によると、1950年には人口184万9000人を数えた自動車産業の街デトロイトは、2007年には91万7000人にまで人口を減らしているそうだ。そのデトロイト住人である黒人男性の言葉『もし、オバマでさえ何もしてくれなかったら、デトロイトの住民はどうなってしまうんだろうなぁ。絶望だけの街になってしまうのかね……』(p150)