- 作者: 高橋卓志
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/05/20
- メディア: 新書
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本書によると、お寺というのは宗教法人であり、信施〔しんせ〕収入(宗教活動収入)という科目は非課税になっているという(p143)。宗教法人というものが公益法人であるがゆえの税制上の優遇なのだが、現実には「信施=布施」は住職の懐に入るものと思われており、社会や地域に還元されることはない。
著者が住職を勤める神宮寺では、1979年以来、コンピュータを導入して決算書を作成し全檀家に配布しているという。
ところがある新聞が神宮寺の経理公開を報道したところ、寺の住職から多くの批判が寄せられたという。曰く「お布施とは『おぼしめし』。それに領収書だの、決算書だの不要!」、曰く「アンタの寺のように経済的に成り立つ寺はそんなことができるかも知れないが、オレのところは檀家が少なくてとてもできない」、曰く「もともと寺の会計は『どんぶり』と『ザル』。それでやってきているのに、経理公開などされたら大いに迷惑だ。寝た子を起こすようなことはやめろ」(p149)。
しかし大半の寺が経理をまともに行っていないツケは、銀行融資を受けられないという形で現れる。結果、寺の本堂や庫裏を建設する際に檀家に対して強制的に要求される寄付に、近年、不満の声が上がっているという。中には一家の月収を超える金額を平然と要求する寺もあるそうだ(p155)。
神宮寺の場合、著者が住職に就任してから総額二億円を超えるプロジェクトを次々と行ったが、20期に及ぶ決算書の作成がモノを言い、そのほとんどを銀行からの借り入れで賄うことができたという(p156)。
神宮寺の行っているさまざまな意欲的なイベントについても本書は多く紹介しているが、上記に示した日本のお寺の経理の実態だけでも十分にショッキングであり、なるほどお寺は「経理の近代化」という一点だけにおいても、変わることが要請されているのだなと納得させられた。