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沢木耕太郎『春に散る』は、ひょっとしてそれからの『あしたのジョー』なんじゃね?

ブログタイトルが今回のエントリーの結論です。こういうことを、よくやる。
新聞の連載小説を読む習慣がある。気づいたら5本、並行して読んでいる。新聞小説って読書タグでいいのかな? 自分で決めればいいだけだが。
新聞小説は、朝日新聞の朝刊に連載されるものが、とび抜けていい。
現在は沢木耕太郎の『春に散る』というのが連載中だが、その前は林真理子の『マイ・ストーリー 私の物語』が連載されていて、これは主要な登場人物の一人がネット語でいうところのサークル・クラッシャーであることが判明する。その前は宮部みゆきの『荒神』が連載されていたが、これは東北の山村に怪獣が登場する物語だった。その前の筒井康隆『聖痕』は…きりがないな。
「好きなものを持ち上げるのに別のものを叩くな」と言うから名前は出さないが、他紙の連載小説は、高名な小説家が手がけたものでも、淡々と筋が流れていく平凡なものが多いという印象がある。朝日新聞からお呼びがかかった作家さんたちは、とっておきの題材を投入する傾向があるんだろうか。
でもって、『マイ・ストーリー』にしても、『荒神』にしても、作者が種明かしをする少し前に、作者の趣向を見破ったと思ったことが内心密かな自慢である。勝手にそう思い込んでいるだけかも知れないが。
『春に散る』は連載が始まって一ヶ月と少々でまだ序盤だが、目下、米国に長く住んでいた中年つか初老の主人公が、何十年かぶりに帰国する場面が描かれている。
帰国した主人公が最初に訪れるのが後楽園ホールで、主人公はかつてボクサーであったことが明かされる。
後楽園ホールで試合をしていたボクサーの所属ジムの会長が女性で、主人公は会長のことを「お嬢さん」と呼ぶのだ。ここで「おや?」と思った。
そうしたら、今日(5月12日)掲載分の後半に、こんなくだりが出てきた。

「後楽園ホールで、よく自分が座っているとわかりましたね」
「ちっとも変わっていないから」
「いや、齢〔とし〕を取りました」
≪中略≫
「確かにそうかもしれないわね。でも、その髪形だけは同じだったの」
「あっ」

http://www.asahi.com/articles/DA3S11748024.html 無料ログインすると読めます)
これは易しすぎるヒントってやつじゃね?
今日の掲載分には、「その髪形」というのがどんな髪形なのか説明はまだない。多分、明日(13日)掲載分に説明あるのだろう。マンガ家の中田春彌による挿絵は載っているが、主人公の髪形は短く刈り込んだオールバック(?)で、オールドマンガファンの瞼に焼き付いているあの、ありえねーほど前髪と襟足を伸ばしたアレではない。
主人公の姓は広岡で、もちろん矢吹なんかじゃない。
会長の名は令子で、葉子じゃない。
でも、ジョーだよね? ジョーなんだろ?
時あたかも、朝日朝刊の同じページで夏目漱石『それから』も再連載されている。『それから』は『三四郎』に続く「前期三部作」の第二作と言われるが、『三四郎』のストレートな続編ではない。どころか、最初に『それから』を読んだとき、主人公の長井代助はどう考えても『三四郎』の主人公である小川三四郎とは別人だろ、と感じた。三四郎は田舎出しの純朴な青年で、代助は裕福な親の金を頼って読書と音楽三昧の日々を送る高等遊民である。主人公以外の登場人物も、とても一対一対応しているようには見えない。
しかしあえて三四郎と代助を同じ人物だと考えて読み返すことにより、興味を深めることもできるのだ(逆につか同様につか、三四郎と代助が同一と思った人は、あえて別人と考えて読んでみるべきであろう)。
沢木耕太郎は、今後の連載の中で、ぜってーぜってー『あしたのジョー』という名前は出さないと思うよ。
また『あしたのジョー』を読んだことのない読者が楽しめないような小説になるてなことは、100%ありえない(二重否定)。
しかし『三四郎』と『それから』程度の近似精度をもって、『春に散る』の中には『あしたのジョー』を十分に想起させうるシーンが、今後忘れたころにさりげなく出てくるんじゃないかな? 出てきてくれたら嬉しいな。
この予想は外れてるかも知れないが、もし当たっていたら自慢するためにエントリーにします。
追記:(5/13)
5月13日掲載分の、髪形に関する記述はこんなだった。

「いまどき、職人さんでもそういう髪形をしている人は少ないわ。アメリカでもそんな風に刈ってくれる床屋さんがいるの?」
「ええ、日本人街の日系の方にずっとやってもらっていたもんですから」

http://www.asahi.com/articles/DA3S11749945.html ログインしなくても読める部分です)
ダイレクトな描写はなく、「昔の職人さんのような髪形」「床屋さんが刈ってくれる」ということで、たぶん短めなんだろうなと想像するしかない。
中田春彌の挿し絵も見ることができるが、これまでの緊張感あふれる場面の連続と打って変わって、あのリアルな絵柄のままとぼけていて好きだなぁ。