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キャスターのついた椅子の脚(特にオフィス事務用チェア)が五本である理由に関する考察

三相交流のエントリーなんか典型だけど、シンプルな数字に「実はそれしかない!」という意味を見出すと感動するのが「理系脳」である(そゆえば「萌える」って見なくなったような気がするけど、死語かな?)。複数の置換群を持つ位数の最小は4であるとか(小難しい表現してますが内容はぜんぜん大したことないです)、ユークリッド三次元空間における正多面体は5つであるとか、最小の完全数は6であるとか…この手の話の極北は「ガロア理論」であろう。「5次方程式以上に解の公式は存在しない」ってやつね。「はてなー」の小島寛之先生も結城浩先生も、このテーマで本を書いているから、興味のある人はチャレンジしてみてください。

天才ガロアの発想力 ?対称性と群が明かす方程式の秘密? (tanQブックス)

天才ガロアの発想力 ?対称性と群が明かす方程式の秘密? (tanQブックス)

 
数学ガール/ガロア理論 (数学ガールシリーズ 5)

数学ガール/ガロア理論 (数学ガールシリーズ 5)

 

あと、確かブルーバックスだったはずだが「ニュートン力学に基づく惑星運動が安定して存在できるのは、空間三次元+時間一次元(すなわち我々の宇宙)しかない」という、ものすごい理論を読んだ記憶がある。だが書名が思い出せないので貼れない。解決済みだが「ポアンカレ予想」というのもあったな。三次元空間(四次元時空)というのは、数学的にはメチャクチャ特殊なんだそうだ。

追記:

思い出しました。竹内薫『超ひも理論とはなにか―究極の理論が描く物質・重力・宇宙 』(講談社ブルーバックス) でした。

 たとえば万有引力の法則やクーロンの法則が逆2乗であるのは、空間が3次元だからである。(思い出していただきたい。電気力線のように源から力線が四方八方に出ている場合、遠くに行くと、力線が疎らになるのであった。その疎らになる度合いは、3次元の球面の面積が4πr^2だったから、その逆数の1/r^2、つまり逆2乗になるのであった)
 たとえば、時間は1つだとして、空間が3次元から4次元になると、太陽と地球の運動は安定した楕円軌道を描くことがなくなってしまう。次元が1つ増えることによって万有引力の法則が逆3乗になるのだが、シミュレーションをしてみると、地球は太陽を素通りして無限遠に飛んでいってしまうか、もしくは、太陽に巻き込まれて消滅するかのどちらかになることがわかるのだ。≪中略≫
 もっとも、太陽と地球という説明さえも適当ではないかもしれない。不安定な宇宙においては、そもそも、太陽や地球をつくっている部品である水素原子さえ安定的には存在しないのだから。

上掲書 P140 より 

超ひも理論とはなにか―究極の理論が描く物質・重力・宇宙 (ブルーバックス)

超ひも理論とはなにか―究極の理論が描く物質・重力・宇宙 (ブルーバックス)

 

 

弊ブログでは、そこまで高度な話は扱えない(「じゃ言うなよ」というツッコミはナシで)。Excelとアニメgifでベクトル図を作ったとき、応用の一つとして思いついていたのが、今回のブログタイトルの件である。キャスターのついた椅子の脚がたいてい5本であることに気づいている人は、身近なものだけに高圧電線が必ず3の倍数であることに気づいている人の割合より、多少多いんじゃないかな?

なんで「キャスターのついた」と限定しているかというと、キャスターがついているということは転がして動かすことが前提、つまり傾ける機会が多いのでは?(その分コケやすいのでは?)という程度の意味です。

三脚、四脚、五脚、六脚をサンプルに、雑に計算してみた。どういった条件を統一して比較したらいいのか、ちょっと迷った。事務用椅子では、座る部分を一本足で支えていて、一本足の先に放射状に「腕」が伸びていて(脚なのに腕と呼ぶのはヘンだけど)、腕の端にキャスターがついているタイプが多いんじゃないかな。

床面上にキャスターが作る図形は、正三角形、正方形、正五角形、正六角形となる。腕の長さ(すなわち外接円の半径)を1とすると、各図形の重心から辺までの長さは、下図のように三角関数を使って計算できる。

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変数を使うより具体的な数値を当てはめた方が実感しやすい。私が実際に使っている椅子をモノサシで計ると、腕の長さは約25cmだった。床から座るところまでの高さは40cmだった。これらの値をデータに採用する。

椅子を正多角柱で近似する。背もたれや肘掛けは無視する。正多角柱の椅子を、底面の辺に沿って傾けてゆき、椅子の重心が鉛直面を越えたら倒れるということにする。

床から重心までの高さは20cmである。底面の各辺から重心までの長さは、それぞれ 25cm × 0.5 =12.5cm、 25cm × 0.71 ≒ 17.8cm、 25cm × 0.81 ≒ 20.3cm、 25cm × 0.87 ≒ 21.8cmとなる。

床と椅子の重心のなす角は、タンジェントの逆関数を使って、下記のように計算できる。

f:id:watto:20160128155026p:plain

つまり三脚の椅子の場合、

 90° - 58.0° = 32.0°

四脚の場合、

 90°- 48.3° = 41.7°

五脚の場合、

 90° - 44.6° = 45.4°

六脚の場合、

 90° - 42.5° = 47.5°

という角度より傾きが大きくなったら、正多角柱の椅子は倒れる(はずだ)。

これをシミュレーションするアニメgifを、ベクトル図を作った時に使ったExcelグラフを改造して作ってみた。私に使えるソフトの数はあまり多くないので、同じようなワザを繰り返し活用するしか能がないのだ。

正多角柱で近似した椅子を、真横から見たところです。底面の一辺を中心に床からの傾きの角度を増してゆき、正多角柱の重心が底面の一辺を含む鉛直面を越えたら椅子が倒れる、ということにしています。

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かわいいフリー素材集 いらすとや 様 の素材をお借りしました。

実は結論は、シミュレートを始める前に予想できていた。三脚の不安定さは断トツ。脚の本数は増やせば増やすほど安定度が増す(倒れるまでの角度が大きくなる)。ただし三脚から四脚に、四脚から五脚に、五脚から六脚にと、脚を増やせば増やすほど安定度の改善の度合い(倒れるまでの角度の差)は小さくなる。

オフィスチェアのほとんどが5本脚なのは、6本脚以上の椅子を作ってもコストパフォーマンス的に見合わない、ってことだろうか。6本脚の高級椅子というのは、ひょっとしたらあるかも知れないけど。

しかし、やってみて初めて気づいたことがある。だが少し長くなったので次のエントリーに書きます。

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