前回までの3回の記事の補遺です。黄金比Φの近似値を与える連分数に関して、行列表記と一般項を与える式を求めてみました。前回の記事でふざけて「読者への練習問題とする」と書いた内容の、私なりの解答例です。
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まずは実際にいくつか計算してみた。極限値は Φ = (√5+1)/2 ≒ 1.61803…、また √5 = 2Φ-1 も誤差がわかりやすいので合わせて計算してみた。
例によって Excel に計算させると、すげー楽である。下図で数式バーに表示されているセルE2の数式を、セルE3以降にコピーするだけだから。
このへん ルート2を連分数の極限として求めようとしたら行列が出てきた(前編)
とやってることはほぼ同じなので、よろしければご覧ください。
* * *
続いて漸化式を求めてみた。漸化式から係数の特徴を探し出して、行列表記に直すのが最も難しいパートなのであるが…
なんだ、一目瞭然じゃないか! フィボナッチ数列だ!
フィボナッチ数列とは、F0 = 1、F1 = 1、Fn+1 = Fn + Fn-1 という漸化式により定義される数列であるが、「黄金比と言えばフィボナッチ数列、フィボナッチ数列と言えば黄金比」というくらい、黄金比と縁が深いのである。
実際
と置いてみると、
となることが確認できる(ただし n = 0 のときにも形を合わせるためには、あんまり見たことないけど F-1 = 0 とする必要がある)。
だから
とすると
ということで、連分数近似で求めたのと同じ近似値が、行列を用いても求まるのである。
* * *
次に、行列の対角化を使って一般項を求める。前回の記事すなわち ルート2を連分数の極限として求めようとしたら行列が出てきた(中編) でやったことと同様のことを、やろうというのだ。
だが事前に google: フィボナッチ数列 行列 で検索したところ、同じことをやっているサイトがいくつもヒットして、凹んだ。
逆に、√2 の行列近似をやっているサイトが見つからないのが不思議なくらいに感じた。論文、紀要まで含めると、誰かやってないわけがないと思うのだが。
まあいいや。どれかリンクを貼って「こちらを参照」でもよかったが、演習のために自分でやってみる。
固有方程式を立てて、解く。
例によって数学学習支援フリーソフト Microsoft Mathematics の力も借りている。こいつを使うと一瞬で解ける。計算間違いを見つけるのにも便利だ。
解の一つとして黄金比が出てきちゃいましたけど、今は無視する。
続いて、解のそれぞれに対応する固有ベクトルを求める。
式が2つ出てくるが、p、q の関係が定まるだけで p 、q の値が得られるわけではない。つか今回の場合は、それぞれ後半の式がそのまま採用できる。
固有値から作った対角行列 D
固有ベクトルを並べて作った行列 P
P の逆行列
逆行列は、Microsoft Mathematics に計算させたものを整形した。
検算も Microsoft Mathematics にやらせた。元の行列がちゃんと復元できている。
つまり
ってことですね。
* * *
さていよいよ一般項を、次式により求める。
こんなもん計算間違いが多い私が手計算でやったら、何日かけても収拾がつかない。Microsoft Mathematics に放り込む。
「近似表示」というのも出してくれたが、「出力」と同じで意味ないなぁ。
今回も、さらに整理可能だったので、手計算で整理してみる。
結果は、こう。
Microsoft Mathematics のリストによる代入という機能を使って、n = 0~5 を計算させてみる。合っているようだ。
念のため、整形前の数式にも、同じリストを代入してみる。結果は同じだった。
* * *
黄金比Φnの一般項は、隣り合ったフィボナッチ数列の商によって与えられる。
これも Microsof Mathematics により、連分数を用いた計算結果および行列を用いた計算結果と一致していることを確認した。
この式の形と
から
すなわち n → ∞ で Φn が Φ に収束することがわかる。
ただし ルート2を連分数の極限として求めようとしたら行列が出てきた(後編) のときと同様、今回も結果的に (√5+1)/2 をふんだんに用いた式から (√5+1)/2 を求めることになり、大変気持ちが悪い。
* * *
以下余談。前回の記事で、連分数や行列の話ではないが、れっきとした数学者が、有名な定理をさして「あれはどうも気になる」という意味のことを言ったという話が、何冊かの本に載っていたと書いた。
ちょっと探したら、2冊ほどがすぐに見つかった。「気になる」どころか「気持ち悪い」とはっきり書いてあった。何の役に立つかわからないけど引用、紹介する。
一冊目。また森毅先生の本だが『無限集合 (数学ワンポイント双書 4)』P25から。実数の濃度が整数や有理数より大きいことを示した「対角論法による証明」を説明したあとで…
この証明は、背理法のインチキクササの典型で、なにやらだまされたような気がする.遠山啓さんが授業したところ,その x を最初にして番号をつけ直したらいいじゃないか,という反論があったそうである.その新しい番号でもダメなのがまた作れてキリがなくなるのだが,遠山さんは「背理法で,最初の仮定を動かすのは将棋でマッタをするようなもんで,マッタをしないのが背理法の仮定だよ」と言ったそうである.「しかしキミ,本当のところはあの背理法はボクだって気持ち悪いんだがね」というのが,この話をしたときの遠山さんの蔭の声.もっともそのときはだいぶんアルコールが入っていたけれど.
二冊目。林晋『パラドックス!』「まえがき」(ii~iii)より。
本書のパラドックスには、いずれも一応の解決策がある。しかし「ぬきうちテスト」や「ヴィトゲンシュタイン」のように歴史が浅く、まだ、広く認められた解決策がないものもある。≪中略≫
こういう「若い」パラドックスだけでなく、完全に解決されたと思われている「古い」パラドックスでも、どうしても気持ちが悪いものがある。古代ギリシャ時代以来のゼノンのパラドックスはその最たる例だ。私は職業的に数学者モードのときは、これが何故パラドックスなのか理解できない。しかし、数学者モードをオフにしてみると、にわかに気持ち悪くなってモゾモゾする。そういうとき数学の考え方ではこうだからと言ってもしようがないのである。モゾモゾ感は数学自体への気持ち悪さから来ているのだから。
探せば多分もっとあると思う。