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「正直は最良の戦略」であるとミス・マープルから教わった話

d:id:happy-ok3 さんの、こちらのエントリーのブックマークコメントに書こうかと思った内容ですが、100字じゃとても収まらないので、自分のブログのエントリーにします。happy-ok3 さん、言及失礼します。

d.hatena.ne.jp

happy-ok3 さんの記事は、正直であることの大切さを説いたタイの昔話を紹介したものだが、私は正直の大切さと言うか、正直こそ最良の戦略であることを、やはりフィクションから教わった記憶が蘇ったので、それを書いてみたくなった。

 

アガサ・クリスティのミス・マープル物に『パディントン発4時50分』という長編がある。マープルの友人が、ロンドン発の列車の車窓から、並走する列車の中でまさに男が女の首を背後から絞めている光景を目撃した。だが車掌に通報するも取り合ってもらえず、翌日、何か事件があったという報道もされない。友人から相談を受けたマープルは、列車から死体を投擲しても見つからない場所があるはずだと推理し、さらにそれが、沿線にある大富豪の邸宅の敷地内に違いないとまで特定する。

そこでマープルは、信頼するルーシーという女性を大富豪邸の家政婦の求人に応募させ、いわばスパイとして送り込む。このルーシーが、本作中ではマープルを食う活躍を見せるのである。ちなみにNHKアニメ『名探偵ポアロとマープル』では、オリジナルキャラのメイベルをルーシーの代役に充てている。

そしてそのルーシー、あるいはメイベルが、ついに敷地内の納屋の中で死体を発見するのであるが、自身も警察からの尋問を受けることになるであろうルーシー、あるいはメイベルは、マープルに、どのように警察に話したらいいのか相談する。

マープルの答はこうだった「事実をありのままに話しなさい」

 

「あっ!」と膝を打った。幼児がいたずらを隠したくなるようなもので、自身がスパイであることなど、裏の事情はつい隠したくなるものだが、隠したって益はないし、そもそも隠す必要のないものだ。逆につじつまの合わない嘘をついたりすると、事態をややこしくするだけで下手をすると自分の首を絞めかねない。正直こそ最良の戦略。さすがはマープル、いやクリスティ。物がわかっていないはずはない。

しかしそれを、これだけ簡潔に、しかも的確に記述されると、ただ脱帽と言うほかなかったのである。

ミステリの場合しばしばあることだが(私だけ?)『パディントン発』に関しては、犯人が誰であったかも含めて、大方の筋は忘れてしまった。しかし、この部分だけは、なぜか鮮明に覚えている。

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ひるがえって自分の若い頃のことを思い出すと、つかなくてもいい嘘を平気でついていた時期があったように記憶している。「息をするように嘘をつく」というやつだ。そして嘘をついたことを忘れてしまう。前述の、幼児がいたずらを隠したがる心理に近いものだったかも知れない。本当のことを話すのが、なんとなく気恥ずかしかったのだ。ただし周囲にはおそらくバレバレで、「あいつはいい加減なことを言う奴だ」ということが知れ渡っていただろうと思う。

具体的にどんな嘘をついていたかは、なかなか思い出せない。だが、こんなことを思い出した。当時の友人に、確か “狂言回し” だったか、ちょっと難しい言葉を使って、それが通じなかったことがある。そこで “狂言回し” がなんたるかを自己流に定義して、いろいろ説明を試みたが、相手からは「 “狂言回し” なんて言葉はないんだろう?」と言われてしまった。それで「あっ、信用されてないな」と悟った。そっちの方が恥ずかしいよね。

 

ちょっとくらい弁解したくなった。ティーンエイジの頃につかなくてもいい嘘をつく傾向があるというのは、文学の中でも見つかる。『ライ麦畑でつかまえて』の冒頭には、主人公が自分は嘘ばっかりついていることを告白するくだりがあったはずだ。また短編の名手と言われる サキ の代表作は、ラストで登場人物の若者が即興の嘘の名人であったことが判明するが、ネタバレになるのでタイトルを書くことができない。 

パディントン発4時50分 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

パディントン発4時50分 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)