近鉄新田辺駅から京都市営地下鉄直通に乗って、会場の京都大学文学部学生控室(通称ブンピカ)のある建物に着いた時には、完全に夜中になっていた。
ブンピカ前に掲げられていた、恒例の「やみいち行動」ぼんぼり。
ブンピカというのは、学校の教室を想像してもらえばいい。ただし老朽化していて、中は落書きだらけである。
そこに客席を設営して、キャパシティは40人ほどだと思うが、毎回だいたい満席である。
貰ったパンフレットから、片面だけスキャンした。
吹き出しの文字が小さくて何を言っているかわからないので、マンガの部分だけ拡大してみた。それでも小さいか。
右上隅一コマ目の「幸せーって 何だーっけ 何だーっけ」というのは明石家さんまのやった「ポン酢醤油」のCMソングで、ぐぐるとオンエアは1980年代半ば頃だそうだ。若い人には通じないぞ。
あ、今回も敬称略で失礼します。
「やみいち行動」の演劇はいつもパロディ、即興、楽屋オチが中心で、「次に何をやるか(やらかすか)」感こそがキモであり、それを文字で再現するのは不可能に近い。ふいんきだけでも伝えられないかと思うのだが、別人がやると別物になってしまう。そういうものだろう。
今回のパロディ元ネタは『ちはやふる』という、TVアニメ化と実写映画化までされた人気少女マンガである。残念なことに私は元ネタ未読である。だがこの劇団の演劇を過去に何度か見た記憶に照らすと、元ネタへのリスペクトは最小限なんてことはなく、劇団員どもがやりたいことを好き放題やっているだけだなんてことはなく、きっと原作の忠実な舞台化に違いないと確信している。
だから『ちはやふる』というのは、きっとこういう物語なんだと思っていいはずだ。
まず登場人物がぶっ飛んでいる。古田新太を名乗る司会者が出てきたりする。なんで古田新太なのかリアルタイムではわからなかったが、あとで検索したところによると、映画版で似た名前の登場人物を演じた男優が、役名にちなんで改名したなんてことがあったらしい。ちなみに劇中のトリビアによると、古田新太は映画を撮り終えると真っ先に床屋に行くらしい。その理由を聞いて「へぇ」と思った。答えはフォント色を白にして選択すると読めるようにしますので、読者の方もちょっと考えてみてください。もし監督が撮り直しを命じたら、髪型が変わったことを理由に断るためとの由。本当かどうかは知らない。
『ちはやふる』というのは、そういう物語だったのか。
それから仕事に疲れて家族から孤立して、夜な夜な動物園を訪れる背広姿のサラリーマンが登場する。このサラリーマンの登場場面は一人芝居で、客席の側に白いゾウがいるという想定でモノローグを繰り広げる。「英語でホワイトエレファントの意味を知っていますか? ありがた迷惑、無用の長物という意味なんです。それは昔、アジアでは白いゾウは神聖な動物で、死なせたりしたら大事だった。それで王様は気に入らない家臣がいると、わざと白いゾウを贈りつけて…」てな具合である。
別のシーンで、放射線防護服のような白装束に身を包み、首からトイレットペーパーのシンを連ねたようなものをぶら下げた男が出てくる。そいつが白いゾウだったりする。
トイレットペーパーの芯の先を見せて「ほら、鼻の穴が二つ開いてる」って知らねーよ!
『ちはやふる』というのは、そういう話なんだろう、きっと。
それから、なぜか古代カルタゴの名将ハンニバルが出てくる。ハンニバルはゾウ軍団を率いてアルプスを越え、ローマ軍とゾウカルタで決戦すると宣言する。ゾウカルタというのは人間のかわりにゾウに取り札を取らせるカルタで、双方の人的損失を避けるためにそういう競技が考案されたとのことだ。カルタとカルタゴが合ってるだけだろ。
ハンニバルは奇策によりローマ軍の攪乱を計画する。その案を部下に出させるのだが、部下の一人はハニートラップと称して、ローマ側ゾウ軍団のエースパイロットの愛人と同じ姓の美女を、大量にローマに送りこむことを献策する。「なんで同じ姓?」との質問に対し、学生時代に井上さんという女生徒に憧れたことがあって、同じ時期に井上姓のヤンキーの双子姉妹が学校にいて、さらに弟がデブの井上さんがいて、そのデブの弟と仲が良くて…って知らねーよ!
『ちはやふる』は読んだことないけど、そういうマンガに違いない。
さらに、地上に落ちてきて戻れなくなった月というのが出てくる。台所用のボウルを2つくっつけて黄色く塗って、目だか口だかの穴を一つだけ開けたチープな舞台装束で、自分は本物の月だ、空に戻してくれ、と大真面目に主張する。
さらにのさらに、小野小町というのも出てくる。演じるのは久しぶり出演の美人の客演女優さんだ。しかし年齢ネタで容赦なくいじられていたけど、いいのか? まあ小野小町と言えば能楽「卒塔婆小町」があるように、年齢ネタとは深いご縁があるからいいのだろう、多分。
『ちはやふる』というのはきっと…ところでこのギャグ面白いですか?
終演後、京大キャンパスをちょっとうろうろした。かつて開演はすべて 12:00p.m.という大人の夜遊びタイムで、地元ならぬ身には車を使うしかなくキツかったが、何年か前からは「劇団員の高齢化で夜更かしがつらくなった」と言う理由で 7:00p.m. 開演の日が設けられるようになった。終演 9:00p.m. だと新幹線を使えば余裕で当日中に名古屋まで帰れるから、楽ではある。
その代わり、うろうろできる時間は少なくなった。
うろうろしたければ、早めに来ればいいだけなんだけどね。でも毎回、早い時間は各所の観光に使っている。
京大キャンパスは、来るたびにどこか様子が変わっている。安いコンデジをフラッシュでごまかして撮ったものだから、画質はご容赦ください。
これは吉田キャンパス北西の、百万遍交差点出入口付近に並んでいた立看板である。
“NF” というのは “November Festival” すなわち京大の学園祭「11月祭」のことだ。
なんでこういうものを珍しがって撮っているかというと、京大キャンパス周辺の立看強制撤去が、全国ニュースにまでなったからだ。
公道沿いは違法ということで、当局としては強制撤去は折れることができなかったのだろうが、折衷案のつもりでキャンパス内部に立看スペースを設けたということなんじゃないだろうかと想像した。
ただしそれで設置する側が納得したかというと、これも想像だが、そうは思えない。
前回拙エントリーへのブコメで b:id:yarukimedesu さんから、今回の公演日数が少なかった理由の一つは「NF時期と重なったため」と教えていただきました。
yarukimedesu さんが劇中で披露したネタを、もっと紹介しておけばよかったかな?
例えば古いジャンプのマンガを読み返しているが、今だったらPC的に許してもらえなさそうなギャグが多いという話。
ある登場人物は、同僚の部下のアメリカ人に対して「今度戦争になったら、真っ先にお前を殺してやる!」と物騒なことを言うシーンがあったそうだ。覚えてないけど、どうせ 両さん でしょ? 『こちら葛飾区 亀有公園前派出所』の、と思ったら正解だった。
それから、単行本1巻の時点で28歳自営業の登場人物がいて、奥さんが学校の先生で、生まれたばかりの子どもを連れて散歩をしていたら、マンションの窓から女性が着替えているところが覗けそうなのを見つけた。なんとか覗こうと夢中になっている間に、子どもが交通事故に遭って、正確には宇宙船に跳ねられてだけど、なんと死んでしまうのだ!
このマンガを知っているかと観客に尋ねたところ、なんと若い観客は今やもう誰も知らないんだね。観客は話の方に引いていたけど、私はそっちが衝撃だった。『Dr.スランプ』の 則巻千兵衛ハカセ と 息子のターボくん の物語で、ターボくん は宇宙人の手によって超能力を持つ天才少年として蘇ります。
『ちはやふる』ってそういう話だったのか…それはもう終わってるっつーの。
スロープにもなっているので、スペースはけっこう広い。
出口に向かって歩きながら撮っている。
吉田キャンパス北西隅の出入口。
引いて撮ると、右の方に百万遍交差点の石垣が写る。ヘッダ画像に使わせてもらっている「椎茸殲滅」の立看は、さらにこの右側あたりに設置されていたものだ。
ただしこの晩に見た限りでは、そのあたりには立看は一枚も見当たらなかった。
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