この2週間ほどの間に、伊方原発関係のニュースがいくつかあった。
一番話題になったのは、17日の広島高裁による運転差し止め仮処分決定ではなかったかと思うが…
12日には、制御棒を誤って引き抜いたという件や…
20日には、燃料が点検装置に接触したというトラブルが報道された。
追記:(1/26)
えええっ!? なにこれ???
追記おわり
伊方原発について、沖合を中央構造線が走っていることや、阿蘇山から約130kmという位置にあることについては以前から指摘されているにも関わらず、人的ミスに起因するトラブルがしばしば報じられることには、「どうなってるの?」とモヤモヤを感じないではいられない。
だが日本の原発で断トツでヤバいのは、伊方原発の対岸にある上関原発だと思っている。ただし計画中だが。
その件に関しては、過去に何度かブックマークコメントや他の人のエントリーへのコメントとして書いたが、自分のブログのエントリーにしたことはなかったので、この機会に書いてみようと思った。
なんでヤバいかというと
- 過去に建設予定地付近で大地震が頻発している
- 敷地の一部が埋立地である
というのが、その理由である。
建設予定地はこちら。
上掲サイト中に
発電所用地
- A.発電所用地面積
約160万平方メートル(うち海面埋立面積 約14万平方メートル)
と明記されている。
google マップで位置を確認し、阿蘇山からの距離を測ると、伊方原発とほぼ同じ距離だ。
Google マップより。矢印挿入等の加工しました。なお「上関原子力発電所」の紺色のマーカーの右上に見える赤いマーカーは「上関原子力発電所準備事務所」とのことだった。
佐田岬半島に沿って走る中央構造線からの距離は、伊方原発より遠いことになるが、代わりに過去に何度も起きた大規模地震の震源地の、ほぼ 直下 真上*1なのだ!
Wikipedia 記事中より「代表的な地震」の表を転載する(「特記」の項は省略)。
発生日 | 名称 | 震央 | 規模 |
1649年(慶安2年) 3月17日 |
伊予安芸大震 | 北緯33.7度 東経132.5度 |
M7.0 |
1686年(貞享2年) 1月4日 |
- | 北緯34.0度 東経132.6度 |
M7.2 |
1854年(安政元年) 12月26日 |
豊予海峡地震 | 北緯33.2度 東経132.2度 |
M7.4 |
1857年(安政4年) 10月12日 |
伊予大震 | 北緯34.0度 東経132.5度 |
M7.3 |
1905年(明治38年) 6月2日 |
芸予地震 (1905年芸予地震) |
北緯34.1度 東経132.5度 |
M7.2 |
2001年(平成13年) 3月24日 |
芸予地震 (2001年芸予地震) |
北緯34.1度 東経132.7度 |
M6.7 |
震央の位置は、例えばこのサイトで手軽に確認できる。
表には載っていないが、もっと最近では2014年に震度5強の地震があった。
魚拓のNHK記事によると M6.2 とのことだから、M7 前後の地震を集めたウィキペの表には載らなかったということだろうか?
記事には震源の略地図も載っているが、中国電力サイトの建設予定地の略地図と重ねると、思わず変な声が出そうになる。
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東日本大震災と福島第一原発の事故があった1か月後に、こんな記事を書いたことがある。www.watto.nagoya
深刻な事故が発生したとき、事前に想定された事象が単独で起きることはまれで、多くの場合は複数の事象が同時に発生するものである。そうすると、複数の事象が同時に起きたときのシミュレーションも事前に行っておく必要があるのではないかという趣旨だった。
具体例がないとわかりにくいので、拙記事中に書いた例を再掲する。
自動車の場合、ガス欠とバッテリー切れが同時に発生したらどうなるか?
ガス欠が起きてもバッテリー切れが起きても、車が動かなくなることには変わりない。仮に両方が同時に起きたとしても、近所のスタンドなり修理工場なりまで牽引してもらうという、対応方法に本質的な変化はない。
では船舶の場合、燃料切れと停電が同時に起きたらどうなるか?
燃料切れが単独で起きたら、無線で救援船を呼び曳航してもらうことになるだろうか。停電が単独で起きたら、最寄りの港まで有視界航行することになるだろうか。
だが両者が同時に発生したら、どちらもできなくなる。例えば無線機だけはバッテリーでも使えるようにしておくなど、特別な事前準備が必要になると思われる。
福島第一原発事故に関しては、極めて多くの事象が報道されてきた。だが今は思い切って単純化する。
原発の運転には、外部電源が必要だった。
外部電源が途絶したときのため、自家発電設備が用意されていた。
しかし 3.11 では、両方が同時に使えなくなった。そのため事故が深刻化した。
同時に二つの事象が発生した想定を行い事前対策を講じることを「ダブルフォールト・トレーランス(二重故障耐性)」と言う。NASA が有人宇宙飛行の経験を積み重ねるうちに確立した概念だそうだ。
原発の歴史は有人宇宙飛行より少し古く、また今述べた福島第一原発事故で起きたことが、日本の原発設計にダブルフォールト・トレーランスの概念が取り入れられていなかったことの傍証になるように思われる。原発を運転再開したり新規に建設したりするにあたっては、ダブルフォールト・トレーランスによる検証が必須ではないかというのが、前掲拙記事の趣旨だった。
素人が思いつくことを、専門家が気づかぬはずはない。その後の報道を見ていると、このような事前検証は、かの業界ではダブルフォールト・トレーランスではなく「ストレステスト」という名で呼ばれているようだ。
ただし、やはりその後の報道により、日本が国策として試みていた原発輸出が、ベトナム、イギリス、トルコで次々と挫折したことを知らされた。ストレステストを厳密に適用すると、工数の(組み合わせ数学の意味での)「爆発」が生じ、コスト的にとても見合わなくなったことが原因の一つではないかと強く推察される。
原発の海外進出失敗に関しては、検索したらわかりやすいまとめ記事があったので、貼っておこう。
上関原発に話を戻すと、単刀直入に言って
なんで計画を見直さないのか?
が、きわめて疑問である。
中国電力HPによると、上関原発の建設計画は、当初計画から大幅に遅延しながらも、まだ断念していないようである。
追記:
2019年11月の毎日新聞記事に言及したツイートを、FF 外からですが。
【拡散希望】
— 祝島島民の会青年部 (@touminnokai) 2019年11月18日
現在、上関原発建設予定地の田ノ浦においては、海上ボーリング調査のための準備作業が継続しています。
ニュース内容の表記がわかりにくいせいで👇ボーリング調査が中止された…との誤解も一部であるようですが、中国電力による作業は継続中です。
https://t.co/VPhIMz5n5Y
追記おわり。
震源地付近で、(一部とはいえ)埋立地を造成するというだけで、ストレステストの項目はどれだけ増えるというのだ?
埋立地造成にともなう諸々の問題が解決済みであるなら、東日本大震災時の浦安市周辺の大規模な液状化も、地盤沈下問題を抱える関西国際空港の2018年台風21号による水没も、ありえなかったのではないか?
一億歩ほども譲って、東日本大震災ならびにその後発生した数々の大規模自然災害の経験を踏まえ、せめて建設予定地を見直すことが、なぜできないのだろうか?
地盤沈下や液状化が発生した敷地内で、福島第一原発事故クラスの事故が、もし現実に起きたとしたら論外。これから建設するにあたって、設計時に想定しておくべき事象の組み合わせ数学的な意味での爆発が生じることさえ必定ではないのか。
「震源地付近」「埋立地」という二要件を外すだけでも、ストレステストに伴う大幅な費用削減が期待できるはずだと思うのだが。
想えば我々は、とりわけ第二次安倍政権発足以降、政府の理屈に合わない説明とも言えない説明に慣らされすぎているような気がする。「桜を見る会」しかり、直近では今次国会の施政方針演説における「非実在移住者」しかり…この手の問題が発生するたびに、安倍政権支持者からは「そんなつまらないことをいつまでもやっていないで、もっと大事な問題を議論しろ」という声が上がる。
それに対する反論として、「桜を見る会」や「非実在移住者」をきちんと説明できない政権が、もっと大事な問題とやらをまともに扱えるのか、というものがある。私の立場はこちらである。
原発政策は、間違いなくその「もっと大事な問題」の一つであろう。政府や電力会社の、私などの抱く疑問の解消にはとてもつながってくれない、内容の薄い説明とも言えない説明の背後に、どんな本音があるのかを示唆してくれそうなニュースを、新しいものと古いもの二つほど貼ってみる。
この二つを選んだことに、特に深い意味はない。今回の記事を書くにあたって、検索してヒットしたものの本文中に貼るには収まりがわるくて貼り切れず、さりとて捨てるのもなんとなくもったいなかったという程度である。
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*1:コメント欄にて指摘いただき訂正しました