🍉しいたげられたしいたけ

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科学に「何の役に立つのか?」はいい加減やめてほしい

関連記事のリンクが集まりそうだったので、エントリーを起こす。直近1週間ほどのものが多い。

直接のきっかけは、この記事だった。

digital.asahi.com

ミューオンに限らず宇宙物理学という分野は、直接的な実用からほど遠いジャンルと言われる。だがブコメにあるようピラミッドや古墳の非破壊内部調査など、意外な応用が広がっている。

ブコメというなら誰かが書いていたように、素粒子物理学は宇宙の根本を研究している学問であり、大麻密輸の検出に応用できたとはしゃぐのは、むしろはしたない部類と考えるべきかも知れない。

 

と言いつつ、こんな記事も読んだ。X旧ツイッター経由である。

www.sciencetime.jp

Wi-Fi がブラックホール研究から生まれたことは知らなかった。ブラックホール研究は、万万が一地球に影響が及ぶ重力範囲にブラックホールが発見されない限り、役に立つことはないだろう。そして万万が一そんな事態になった日には、人間の力では危機回避不可能であろう。

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なんでこの記事がタイムラインに流れてきたかというと、想像だけど 橋下徹 氏がX旧ツイッターにポストした学者批判が発端だったんじゃなかろうか? 京都大学大学院教授の 藤井聡 氏が東京都議選における 石丸伸二 氏の選挙戦術を批判したTV番組およびそれを報じた記事に反応したものだった。

 

橋下 氏のポストに対するリプや引用ツイートは、期せずして役に立たないと言われていた科学技術が実用化され大いに活用された事例集のようになっていた。

曰く、現代インターネットのセキュリティを基礎づける公開鍵暗号方式は、応用がないと言われた数論から生まれた。

曰く、19世紀にファラデーが電磁誘導の実験を行っていた頃には、電磁気学が何の役に立つのか全くわからなかった。当時の財務大臣だったグラッドストーンに「これが何の役に立つのか?」と訊かれて「あなたがたは必ずこれに税金をかけるでしょう」と洒落た言い回しで応じたエピソードは有名。

リプと引用ポストからキーワードを拾ってゆくと、検索用の手掛かり集になるかも知れない。

 

自分の引用ポストで悪いけど、これも貼らせていただきたい。

 

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)』に関して書いた拙過去記事。医療少年院では、入院者の更生に認知行動療法と呼ばれる言語化トレーニングを用いている。同書著者の 宮口幸治 氏は理系畑の出身だが、認知行動療法は人文科学ジャンルに分類すべきであろう。

www.watto.nagoya

 

自己リプをもう一つ貼らせていただく。ひょっとしたら、まるっきり見当違いのことを書いているかも知れない。しかし関係絶無ということも、ないんじゃないかな。

 

ブルームフィールドとチョムスキーについて書いた拙過去記事。タネ本は新書本一冊だけだけど。

www.watto.nagoya

 

ソシュールも、私のソースは新書本一冊にすぎない。

www.watto.nagoya

だから、ほんのこの数年で驚くべき進化と普及を遂げた生成AIや機械翻訳に、私が何か言うのはおこがましい限りかも知れない。もっと勉強しようと思ったら、いくらでも勉強することはあるのだ。

 

いわば逆の事例として、こんな報道にも接した。7月18日NHKラジオ第1「Nらじ」で、ウナギの完全養殖の話をしていた。あとから記憶をたどって検索したところ、この記事に書かれていた内容とだいたい同一のようだった。

www.tokyo-np.co.jp

実はウナギの人工孵化は50年近く前の1973年に実現しており、コストさえ無視すれば完全養殖はすでに実現されているそうだ。だがウナギ養殖の困難さは成長ステージに応じて異なる飼育環境を用意しなければならないことにあり、現状ではコストがどうしても割高になるそうだ。

実用性には疑いの余地ないウナギ養殖には、これまで50年以上研究開発コストだけが支出されているわけだが「無駄だ」と切り捨てますか? つか50年以上にわたって研究開発が維持されてきた動機と、「全く役に立たない」と言われる学術研究が持続されている動機の間に、なんらか差異があると思いますか? 私は全く差異はないと考えます。

 

ということで結論を一言で書いてしまえばブログタイトルに掲げた通り "科学に「何の役に立つのか?」はいい加減やめてほしい" で終わってしまう。科学はそれ自体が目的であり、応用はあくまで副産物なのだ。

しかし、よくやる収集癖の発露として興味深い事例が見つかったら随時追記するためと、それからややもするとすぐサボりがちな自分の勉強の動機づけのためエントリーを公開する。