新着お目汚しを避けるため、時刻をさかのぼって公開しています。レッド・ヘリング(燻製ニシン)のいちばん臭い部分にさしかかりますが、以前に書いた通り「はてなブログ」に公開しているのは第1稿で、何度か手直しする予定でいます。材料はネットに公開されている資料に頼っており、実際に実在の地方自治体を取材したわけではありません。最後のほうで広報担当のロボットが暴走して自治体首長の批判を始め、最終的にぶっ壊れるというギミックを予定しているので、さすがに実在の某市に対して引け目を感じます。
目次
(9) 第7景 ナゾジャ市広報担当ヤマシマ(その1):本稿
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第7景 ナゾジャ市広報担当ヤマシマ(その1)
翌朝、ホテル付属の喫茶コーナー。
ナナシャクさま「ナゾジャ名物の一つ、モーニングセットです。ナゾジャ市民は単にモーニングと呼んでます」
ミチヒロとマコト、朝食を前にしている。小倉トースト、フルーツサラダ、コーヒー。
ミチヒロ「うえっ、またこんなの?」
マコト「(トーストをかじりながら)食べてみなよ。普通に食べられるよ」
ミチヒロ「(トーストを口にはこぶ)本当だ! あんこの甘さとバターの塩辛さがほどよく調和してる。厚切りパン生地も、月並みだけど中はしっとり外はパリッ。(トーストとコーヒーを急いで平らげ、マコトに)よかったら一切れちょうだい」
マコト「やだ。追加注文すればいいじゃん」
ミチヒロ「すいません、小倉トースト追加できますか?」
はーいの声。
ナナシャクさま「ここからナゾジャ市役所へは、地下鉄が便利です。みじかいりゅう はホテルに頼んで駐車場に置かせてもらいましょう」
ミチヒロ「駐車場って言っちゃったね」
マコト「何を今さら」
場面変わって、地下鉄の車内。二人は吊革につかまって立っている。
ミチヒロ「ところで、なんで今日はスカートなんだよ?」
マコト「女の子が2日続けて同じ服なんて、おかしいだろ」
ミチヒロ「そういうことじゃなくて、着替えはどうやって持ってきたのさ?」
マコト「ないしょ」
ミチヒロ「また謎か。どうでもいいけど、女の子をアピールしたいなら、もっとやることあるんじゃない?」
マコト「あら、わたくしお嬢様言葉でしたら自在に使いこなせましてよ」
ミチヒロ「きもちわるっ!」
マコト、ミチヒロを突っつく。ミチヒロ、反撃する。突っつき合いがエスカレートするのをなだめるようにナナシャクさま…
「あ、あの…そろそろ目的地に着くようです」
場面ふたたび変わって、ミチヒロ、マコト、ナナシャクさま、アイタタ県庁とナゾジャ市役所の前に立つ。アイタタ県庁は屋上に天守閣を乗せている。ナゾジャ市役所は屋上に四角い高い塔があり、さらにその上に二層の屋根を乗せている。
ミチヒロ「本当にわけのわからない都市だなぁ」
ナナシャクさま「3つのまつりが同じ日に開催されるというフィクションを除くと、だいたい合ってるんですここまで。ところで…」
ナナシャクさま、たたずまいを改めるといった趣きでミチヒロとマコトに向き合う。
ナナシャクさま「少し早いですけど、私の役目はこれで終わりです。力不足でしたが、少しはお役に立てたことを望みます」
ミチヒロ「そんな、少しどころかナナシャクさまがいなかったらここまで来れなかったよ。ありがとう、感謝してる」
ナナシャクさま「そうおっしゃっていただけると嬉しいです。それではまた何か機会がありましたらお会いしましょう」
ナナシャクさま、秘書インコとビスケットバッグに戻る。秘書インコ、ミチヒロの肩に止まる。ミチヒロ、マコト、ビスケットバッグ、ナゾジャ市役所に向かう。
場面三たび変わって、ナゾジャ市役所の応接室。机と椅子、そしてナゾジャ市広報側に大きなディスプレイがある。ビスケットバッグはノートパソコンとしてマコトの前の机に乗っている。
ナゾジャ市の広報担当官ヤマシマが登場する。昔の手回し式電話機のような顔をしたロボットで、丸くて巨大な目は青色に点灯している。ただし、プロポーションは成人である。女性形らしく、レディーススーツを着用し声は合成音声だがやや高めである。
ヤマシマ広報担当「ナゾジャ市文教福祉広報担当のヤマシマと申します。よろしくお願いします」
ミチヒロ「(苦虫を噛みつぶしたような表情で独白風に)なんだこいつ、ロボットじゃないか。ボットに応対させる気なの?」
マコト「(ミチヒロを肘でつつきながら)そういうこと顔に出しちゃダメ」
ミチヒロ「(表情を改め)秘密結社から派遣された、大中中央小学校6年の猪飼ミチヒロです。よろしくお願いします」
マコト「赤崎第2小学校5年の尾藤マコトです。よろしくお願いします」
ミチヒロ「(マコトの方に小声で)5年生だったのか」
マコト「(小声で)聞かなかったから言わなかったんだよ。関係ないじゃん」
ミチヒロ「(やはり小声で)年下のくせに生意気な口ばっかり利いてたんだな」
マコト「1年差くらいで先輩ヅラすんなよ」
ミチヒロ「まあいいや。(ヤマシマ広報担当に)録音いいですか?」
ヤマシマ広報担当「はい。基本的に私から提供する情報はホームページなどで公開されているものばかりです。またURLは随時QRコード化して提供します」
ミチヒロ「お願いします」
ヤマシマ広報担当「それではご説明を始めます。まずお尋ねいただいたナゾジャ市における小中学校数、学級数、幼児・児童・生徒数、教員数は、年度ごとにホームページに公開されています」
スクリーンにExcel表が表示される。
ヤマシマ広報担当「各データの推移となりますと、これらを元に集計していただくしかないですが、小学校の統廃合だけでしたら『アイタタ県小学校の廃校一覧』というタイトルでウィキペディアに簡易なまとめがあります。QRコードはこちらです」
スクリーンにQRコードが表示される。
マコト「認識しました」
ヤマシマ「このまとめによると市内では1982年に1校、2002年に3校、2010年に2校、2015年に3校、2023年に2校、2024年に2校が統廃合の結果閉校となっています。ただし校名が変わって存続している小学校が含まれますから、これらの数字が純減という意味ではありません」
ミチヒロ、マコトの操作するパソコンをのぞき込む。
ミチヒロ「すごいや、生徒数の推移などいろいろな情報が載っている。また住所をマップ表示させると、跡地がどうなっているかもわかる」
マコト「生徒数が激減した結果だったんだね」
ヤマシマ広報担当「さらに詳しい事情のわかる文書としては、アイタタ県やナゾジャ市のものではありませんが、文部科学省の委託を受けて株式会社リベルタス・コンサルティングさんがまとめた『小・中学校の設置運営に関する事例研究 ~公立小・中学校統合事例集~』というレポートが平成23年、2011年に発表されています。こちらが多いに参考になるのではないでしょうか」
ふたたびスクリーンにQRコード。
ミチヒロ「(マコトに)ダウンロードできる? わっ、100ページを超える、かなりの分量なんですね」
ヤマシマ広報担当「市町村の人口規模ごとに事例が紹介され、巻末にまとめがあります。決して読みにくい文書ではありません。これによると統廃合の理由は主に人口の減少で、見出しの『公表時期』から『完了時期』まではだいたい2年から5年の範囲ですが、事前の計画策定と関係者に周知し理解を得るのにどこも10年近い年月をかけているようです。また跡地の利用にも、地域住民の利益を最適化するため多くの時間をかけて検討していることがわかります」
ミチヒロ「(独白気味に)カーミィ・サッマーはショッピングセンターを新築するのに1年以上かかると言ってたけど、学校を潰すのにも跡地に何かをつくるのにも、それぞれ10年単位の時間がかかるってことか」
(この項つづく)
追記:
参考サイトです。
株式会社リベルタス・コンサルティング「小・中学校の設置運営に関する事例研究」(pdf)
続きです。
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