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(12) 第7景 ナゾジャ市広報担当ヤマシマ(その4):本稿
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第7景 ナゾジャ市広報担当ヤマシマ(その4)
ヤマシマ広報担当、ディスプレイにグラフを映す。
ヤマシマ「令和4年度、2022年度の『児童相談所における虐待相談対応件数とその推移』を示すグラフです」
ミチヒロ「一貫して右肩上がりで増え続けていますね」
ヤマシマ「実数が増えているというより、暗数すなわち表に出なかった数字が表に現れ続けているのではないかと考えられます。グラフの左端は平成2年度、1990年度から始まっていますが、この年はわが国が前年の国連総会で採択された『児童の権利条約』に署名した年です」
マコト「昔は虐待と認識されなかったことが、虐待と認識されるようになったことがあると聞きます」
ヤマシマ「おっしゃる通りです。こども家庭庁の『児童虐待防止』HPは、『児童虐待防止法』2条に基づき児童虐待を身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4つに分類して定義しています。ここで強調したいのは『言葉』というものの働きです。何年か前に 宮口幸治 先生の『ケーキの切れない非行少年たち』という本が累計で120万部を超えるベストセラーになったことがありますが、ご存知ですか?」
ミチヒロ「名前は知っていますが、読んだことはありません」
マコト「私もです」
ヤマシマ「この本は著者の宮本先生が勤務した医療少年院での体験を述べたものですが、とても印象的なタイトルのケーキを三等分できない少年院生たちについて述べた部分は、本文182ページ中3ページ半に過ぎないのです。医療少年院には暴行傷害事件や性犯罪など深刻な事件を起こした未成年たちが入所していますが、著者によると彼らの多くは『簡単な足し算や引き算ができない』『漢字が読めない』『簡単な図形を写せない』『短い文章すら復唱できない』といった深刻な学習障害を持っていたそうです。そのため彼らは学校で孤立していたりイジメに遭ったり、あるいは家庭内で虐待を受けていたりしていたそうです。どちらが原因でどちらが結果なのかは、判然としないですが」
ミチヒロ・マコト「…」
ヤマシマ「少年院生たちはその学習障害のため、またその学習障害が学校や家庭に理解されないため、自らの直面する問題を適切に言語化して周囲に訴えることができず、溜まったフラストレーションが彼らを犯罪に向かわせられるのだそうです。そして、申し上げるのがとてもつらいことですが、その多くは幼児に対する強制猥褻という形をとるといいます。彼らは強い性欲を持っているため、あるいは異常な性的志向を持っているため、そのような犯罪に走っているのではないそうです」
マコト、目を背けるようにうつむく。
ヤマシマ「医療少年院では、少年院生たちへのケアに『認知行動療法』という方法が用いられているといいます。『ケーキの切れない非行少年たち』には、著者らが実践したケアの具体的事例が多く紹介されています。それらの内容はこの本を手に取っていただくとして、短く要約するとしたら「言語化のトレーニング」と言えるのではないかと思われます」
ミチヒロ「ボクの小学校の担任の先生は、東島先生って言うんですけど、ボクたち生徒に『できるだけ多くの本を読め』『その感想を言葉にしろ』といつも指導しています」
ヤマシマ「そうですね、多数者にあたる通常学級の正課も、特異な少数者である医療少年院のケアも、本質は共通しているように思われます。人間が人間であるにあたって、言葉というものの果たす役割は、意外なほど大きいのではないかということです。そしてその本質は、ICTがいかに進歩したとしても、その技術によって伝えられるべきものの中心に置かれなければならないと考えます。もう一つ事例を紹介したく存じます。やはり性非行に関わる、さらにセンシティブな話題になりますが、いいですか?」
ミチヒロ・マコト「はい」
ヤマシマ「もし気分が悪くなったら、いつでもおっしゃってください。ICTとも少し関連があるのですが、京都精華大学の あかたちかこ 先生は、担当の講義をYouTubeで公開されています。京都精華大学の学生さんたちは、自由な時間にYouTubeを視聴して、レポート課題を提出することにより単位が認定される正課の授業なのですが、学外者も自由に視聴することができます。どの授業も興味深く多いに勉強になるのですが、2023年度『社会支援論』から一つのエピソードを紹介したいと思います」
ヤマシマ、QRコードを示す。
ヤマシマ「1コマ90分の短くないビデオですので、あかた 先生が講師を兼任されている児童自立支援施設についての説明は26分ころから、あかた 先生が担当した事例は44分ころから視聴していただければいいのではないでしょうか」
ヤマシマ、YouTube画面をディスプレイに写す。
ヤマシマ「このYouTubeであかた先生が担当されたのは中学生の女生徒でしたが、性非行を理由に施設に送致され調書に『性的快楽にふける傾向がある』と書かれていたそうです。あかた先生は一読『これはおかしい』と判断されたそうです。中学生の発達段階で『性的快楽にふける』というのは、ありえない、というご判断でした。あかた先生はその女生徒と面談を重ねるのですが、その過程で恐るべき事実が明らかになったのです」
ミチヒロ・マコト「…」
ヤマシマ「実はこの女生徒の家庭に問題があったのです。父親が母親に恒常的に暴力をふるい、特に性行為に関しては、娘の目の前で父親が母親に暴力によって強要する、いわば『家庭内レイプ』が日常化していたというのです」
ミチヒロ・マコト「…」
ヤマシマ「そういう環境で女生徒は、思春期を迎えます。すると周辺の男子たち、上級生や同級生から誘いがかかります。『やらせてくれへん?』『セックスさせてくれへん?』女生徒は断るすべを持ちません。よって答えます『ええよ』」
ミチヒロ・マコト「…」
ヤマシマ「男子たちのコミュニティに、またたくまに評判が広まります『あの子はセックスさせてくれる』これが性非行なのでしょうか?『性的快楽にふける傾向がある』ということなのでしょうか?」
ミチヒロ・マコト「…」
ヤマシマ「ここから先の、あかた 先生の教導は、もしここまででご興味をお持ちいただけたのであれば、ぜひYouTubeをご覧いただきたく存じます。はじめ大人たちからの夥しい説教に慣れ心を開かなかった女生徒から、いかに信頼を得、いかに実行可能な解決策を見出していったかは、あかた 先生ご本人の言葉を聞いてほしいと望みます。ただしその教導の内容を俯瞰するなら『言語化』、言葉の力に頼ったものだと言えると思います。児童自立支援施設では、この例のような教導が入所者と担当者のマンツーマンで、時には一人の入所者に対し二人の担当者で行われるそうです」
ミチヒロ・マコト「…」
ヤマシマ「ですから一人当たりのコスト、一人当たりのマンパワーに換算すると、通常の学校で標準的なカリキュラムを学んでおられるみなさんとは、比較になりません。桁がいくつも違います。しかし繰り返しますがそれが『全体の奉仕者』たる行政に課せられた役割なのです」
ミチヒロ「わかります。そして先ほどの交通事故の例と同様、誰もが多数者でありえ、誰もが少数者となりうるのですね」
マコト「でも少数者の人たちにも、多数者と遜色のない行政サービスを提供するのは、大変なことですよね」
ヤマシマ「残念ながら取り残しとしか言えない事例が多数あることは、日々自覚しています。また、どうしても目の届かない部分は出てくると思われます。その意味で市民のみなさんからの、建設的なご批判、ご指摘はいつでもお待ちしています」
ミチヒロ「あれ、そう言えばナゾジャ城天守閣の木造再建計画で論争があったのでは…身障者や高齢者向けのエレベーターをつけるつけないで…」
ヤマシマ、一瞬沈黙、目の色が青からオレンジに、そして赤に近いオレンジに変わる。
ヤマシマ「あのバカ市長!」
(この項つづく)
追記:
参考サイト
令和4年度児童虐待相談対応件数(PDF)
続きです。
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