8月12日付拙エントリー "「グレリングのパラドックス」は疑似パラドックスにすぎないのではないかという試論" に、ネギ (id:ad2217) さんから言及頂きました。ありがとうございました。同エントリー中に追記しましたが、独立したエントリーも立てます。
うんと要約すると、数学の世界では「有限だが最大値が存在しない」ことがありうる、というご指摘でした。
上掲エントリーには "可能であれば提唱者ブロウウェル (ブラウアー?) 自身の表現を確認したいところです" とブコメしましたが容易ではないので、とりあえずタネ本である吉永良正『ゲーデル・不完全性定理: 理性の限界の発見』(講談社ブルーバックス) より、当該部全体は長いので一部を引用します。
円周率は周知のように無理数ーーそれどころか超越数でもあるのですがーーですから、
3.1415926535897932384626433832795028841971……
と無限に小数展開ができます。そして、小数点以下のどこにも同じ数字配列のパターンは現われません。一種の乱数のような数字配列になっているわけですがーー実際、円周率は乱数のサンプルとして使われていますーー、もっと重要なことは、この一見勝手に見える数字配列も小数第何位にどんな数字が来るのかは、無限に小さな小数位に至るまで、はじめからあらかじめ決まっているという事実です。
そこで、たとえば9という数字をいくつか連続して並べた数字配列が、円周率の小数展開に存在するか否かを問題にしてみましょう。たとえば9を六個続けた数字配列の最初の実例は、小数点以下七六二位から七六七位までに出現します(「岩波数学辞典第3版」の数表で調べてみますと、確かに、「……134999999837……」という数字配列がパッと目に飛び込んできます)。
では、9を一〇個、あるいは9を一〇〇個並べた数字配列ならどうでしょうか?前者はすぐに見つかりそうですが、いまのところまだ〝現物〟は見つかっていないようです。後者は単純に確率的に考えるととてもありそうには思えませんが、しかし、そのような数字配列が確かに「存在しない」という証明もなされてはいません。〝現物〟探しでいくかぎり、現実的にいって、永遠にそんな証明は不可能です。原理的には世の始めから決まっていることのはずなのに、人智ではイエスともノーとも決定できないーーすなわちこれこそ排中律が成立しない恰好の実例であ る、とブロウウェルは考えたのでした。
前掲書 P163、165 改行位置、変更しています。ルビ省略しています。
たしかにこの記述の範囲では、疑問が生じます。
もし円周率ではなく0~9の数字をランダムに並べた数列を考えると、9がN回連続することは10のN乗分の1の確率で確実に存在するわけで、Nが10回どころか100回だろうと1000回だろうと、それどころか恒河沙回阿僧祇回那由他回だろうと、10の恒河沙乗阿僧祇乗那由他乗桁を調べれば見つかる可能性があるという不可思議が無量大数の世界ではあるわけです。恒河沙阿僧祇那由他不可思議無量大数言いたかっただけですすみません。
上掲引用部の "…134999999837…" が762桁から767桁で発見されたというくだりも、乱数列におけるN=6と考えれば、6桁~10^6よりは少し大きいがだいたいあってるようで、ならばN=10だってN=100だって「単純に確率的に考えると」とてもありそうに思えないどころか、いくらでもありうるはずです。
ここで問題になるのは、円周率の10進表示が完全なランダムかどうか、わかっていないということだと思われます。上掲引用部には「円周率は乱数のサンプルとして使われています」というくだりがありましたが、別の人の著書ではランダムとはならず、0の出現回数が少ないみたいな特徴があるといった記述を読んだうろ覚えの記憶があります。
ただしこちらのサルベージには成功しておらず、記憶違いの可能性があります。
ネギさん上掲エントリーのブックマークコメントに、b:id:omega314 さんの印象深いコメントがありましたので、引用をお許しください。通知お騒がせします。
数学:腑に落ちない。(例を追記した) - ネギ式
もし「円周率を十進表記したとき小数点以下に9が連続して現れる最大の回数」の存在が証明できたら、円周率に存在しない有限数列が存在することになるので、円周率は正規数でないとなるな(円周率が正規数かは未解決
2025/08/22 14:57
wikipedia:正規数 不勉強にして知りませんでした。お恥ずかしい限りです。
このウィキペの内容によれば、「0の出現回数が少ない」というのは私の記憶違いの可能性が、ますます高まります。
これは想像ですが、ブロウウェルの問いは「最大値はいくつか」ではなく「最大値は存在するか、もし存在するとしたらいくつか」というものだったのかも知れません。
それにしても、やはり腑に落ちないところがあります。上掲引用部の続きに、次のようなくだりがありました。
この例題に関して、ブロウウェルとヒルベルト派の間でやりとりされた、おもしろい会話が記録されています。ブロウウェルがヒルベルト派の牙城ゲッチンゲンに乗り込んで、ゲッチンゲン数学クラブの集会でヒルベルト本人を含むヒルベルト派の聴衆を前にして直観主義のアイデアについて話したときのことです。聴講者の一人が、ブロウウェルにこう反論しました。
「あなたは円周率を十進法で表現したとき9が一〇回連続して現われるか否か、われわれにとって知ることが不可能だといわれるのですか?おそらくそれは知り得ないでしよう。だが、神はご存じのはずです!」。
これに対するブロウウェルの返答はこうでした。
「あいにく私は、神と連絡をとる方法を持ち合わせていません」。
ここまではブロウウェルの貫禄勝ち。一介の聴講者と、この問題を考え抜いてきた一つの思想の創設者との間では、勝負にならなかったようです。
前掲書P165
確かにこのやりとりは面白いと感じますが、ランダムな数列において9がたかだか10回くらい連続して現れることを、「一介の聴講者」とはいえガチ数学セクターが不思議に思うこと自体が不思議な気もしてきます。ガチ数学セクターの実力には、私など足元にも及びません。
ようするに、よくわかりません。それが今のところの私の結論です。
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