目次 各「その1」のみ クリックで詳細表示
(7) 第2景【鎌倉編】車借・捨六(1/6: 本稿)(13) 第3景【鎌倉編】馬借・欠七(1/2)
(15) 第4景【現代編】個室病棟にて(1/2)
(17) 第5景【鎌倉編】ボクの無双(1/2)
(19) 第6景【鎌倉編】被差別集落(1/4)
(23) 第7景【鎌倉編】霊感商法(1/5)
(28) 第8景【現代編】ボクシング
(29) 第9景【鎌倉編】地頭・稲田(1/2)
(31) 第10景【現代編】哲学者
(32) 第11景【鎌倉編】心霊教ふたたび
(33) 第12景【現代編】裵〔ペ〕デスク
(34) 第13景【鎌倉編】刺客
(35) 第14景【現代編】守衛
(36) 第15景【鎌倉編】大団円(1/4)
(40) 第16景 鎌倉編の後始末
(41) 終景 現代編の後始末(1/3)
新着お目汚しを避けるため、日付をさかのぼって公開しています。今回以降、登場人物の生死にかかわる展開や、排泄関係を含む劣悪な衛生状態に関する記述が頻出するので、閲覧注意です。
前回はこちら。
(主人公のナレーション) そうした打ち合わせの直後、あろうことか他ならぬボク自身が人身事故に遭遇した。
事故の詳細は、あえて記さない。偏見を助長することを恐れてである。パターンとして "暴走トラックに轢かれる" という設定をよく見かけるが、小説家として食えない頃にアルバイトに身を投じていた経験から、トラック運転手さんたちが、いかに安全に細心の注意を払っているかを知っているので、いつも「それは違う」と言いたくなる。
かといって運転手の属性や事故車の車種を述べると、それがどのようなものであれ、やはり読者になにがしかの先入観を与える結果になるのではないかと杞憂する。
ただ一言、自己弁護をさせていただくなら、事故のシチュエーションにおいてボクは全き交通弱者であり、過失割合0対10だったことを強調しておきたい。
気づいたら、ボクは見知らぬ青空の下に、ひとりで立っていた。
頭には、菅笠というのだろうか植物繊維で編んだ笠をかぶり、濃い灰色の粗末な単衣をまとい、足には草鞋を履いていた。
そして手には大きめの木の枝そのままの杖を握り、背中には笈〔おい〕という細い木か竹をつづったショルダーバッグを背負っていた。
この笈が、ずっしりと背中に重い。のみならず菅笠から匂い立つ植物の匂いは強烈だし、また笠の紐はちくちくと首を刺す。単衣の触感も、草鞋の触感も、快適なものではない。
つまりすべてのクオリアが、これは現実だとアピールしている。
視覚的には、緑が近い。左右に灌木の茂る人気のない小道にいる。笠を取ってみると、太陽はほぼ真上にある。風はそこそこ強いが、幸い暑すぎも寒すぎもしない。太陽の角度からすると、春季と思われる。
道の片側に、山がせまっている。反対側に山はない。目には見えなかったが、おそらく海があるのだと思った。
なぜか、めちゃめちゃに不安というほどではなかったが、どうすればいいか途方にくれた。
とりあえず、叫んでみた。
「これは夢だーっ!」
無駄だと思ったけど、やはり無駄だった。自分の声が、やはりクオリアとして自分の耳に響いただけだった。
「学校を元にもどしてよーっ!!」
やはり無駄だった。今のどこが面白いかわからなかった人は、ボクの前作を読んでください。
「どうしましたか?」
茂みの中から、見知らぬ男が「ぬっ」と出てきた。
内心「わっ」と驚いた。大男である。年はボクより少し若く、30になるかならずかだろうか。牛を思わせる、いかつい面相。頭を総髪に結び、上半身はチャンチャンコのような腕通しを羽織っただけの半裸、下半身は下帯ひとつである。そしてボクと同様、笈を背負っている。
腕は丸太ん棒のように太く、腹はべんべんと張り出している。
そして何より体臭がキツい!
汗と垢の匂い、そして明らかに人間のものでないケモノの匂いが、周囲に強烈に漂っている。
とりあえず、尋ねてみた「あなたは誰ですか?」
大男は、いぶかしげな表情を浮かべた「今朝、名乗ったばかりですが、お忘れになりましたか?」
「恥ずかしながら」
「捨六〔すてろく〕と申します。馬借車借と呼ばれる稼業に携わっています」
悪い人物ではなさそうだと思ったので、尋ねてみた。
「ものすごくヘンなことを訊いていいですか? ボクは誰ですか?」
捨六は、首をひねり、しばらく沈黙した。
「あなたはご自分がどなたかもわからない?」
「はい、恥ずかしながら」
「たいへんな衝撃を受けたので、動転しているのでしょうか。あなたは元はお坊さまの "ぜんしん" さま、今は "よしざね" さまと名を改められて、越後に流刑になるところと承っています。我々は越後の郡司まで、あなたを送り届けるお役目をおおせつかっています」
(この項つづく)
追記:
続きです。
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