目次 各「その1」のみ クリックで詳細表示
(13) 第3景【鎌倉編】馬借・欠七(1/2)
(15) 第4景【現代編】個室病棟にて(1/2)
(17) 第5景【鎌倉編】ボクの無双(1/2)
(19) 第6景【鎌倉編】被差別集落(1/4)
(23) 第7景【鎌倉編】霊感商法(1/5)
(28) 第8景【現代編】ボクシング
(29) 第9景【鎌倉編】地頭・稲田(1/2)
(31) 第10景【現代編】哲学者
(32) 第11景【鎌倉編】心霊教ふたたび
(33) 第12景【現代編】裵〔ペ〕デスク
(34) 第13景【鎌倉編】刺客
(35) 第14景【現代編】守衛
(36) 第15景【鎌倉編】大団円(1/4)
(40) 第16景 鎌倉編の後始末(本稿)
(41) 終景 現代編の後始末(1/3)
新着お目汚しを避けるため、日付をさかのぼって公開しています。体裁にこだわらず頭の中にあるものをダンブしている、という意味です。 あとからどんどん手を入れる予定です。前回はこちら。
(主人公「ボク」による語り)
思三尊常在伴我 思えば三尊は、常に私とともにある。
貧乏神是勢至也 貧乏神は、すなわち勢至である。
欲糊口而尽知恵 糊に口するため、いつも知恵を尽す。
疫病神是観音也 疫病神は、すなわち観音である。
病我身故知他苦 我が身を病む、ゆえに他の苦しみを知る。
死神是阿弥陀也 死神は、すなわち阿弥陀である。
何人不可能避死 何人も、死を避けることができないのは、
不二証摂取不捨 摂取不捨の、またとない証明である。
斯上何怖之有乎 この上、怖れなければならないものは、あるだろうか? いやない。
唐突だが、貼りたくなった。早く言えば "残酷な菩薩のテーゼ" みたいなものだ。
すぐに現代に戻ってもよかったが、その後のなりゆきを見たいと思ったので、ちょっとだけぐずぐずしていた。
明晰夢みたいなもので、ぐずぐずしていたからと言って、戻れなくなることはない。
郡衙の中庭にいた多くの人たちは、それから日常に戻ったが、少なからぬ人が出家を希望した。尉〔じょう〕さんとか、荒事師たちとか、なんと後藤郡司まで。
尉さんたちは、想像通り治承・寿永の乱の戦争トラウマを抱えていた。戦争トラウマに苦しんだのは熊谷直実だけじゃないのだ。
後藤郡司も、宮仕えによるストレスが半端なかったらしい。郡司がいなくなると、現代と違って役人だからと言って身分の保証されていない郡衙のスタッフたちも失業することになる。そのうちの何割かもまた、出家を希望した。
彼らは、都の比叡山を目指すことになった。あそこだったら、多少の人数は収容できよう。ぶっちゃけ食い扶持をまかなうことができる。当時の寺院には、そういう役割もあった。ボク自身が紫雲寺で体験したことだ。
比叡山出身の西明和尚が、彼らを先導することになった。面倒見のいい人だ。
つか西明和尚は、見るからにウキウキしていた。現代に喩えて言えば、京都の大学で学生時代を送った人が、京都に限らないか、年を経て出身大学に戻れる機会があったら飛びつくようなものだろうか。
そして高田の行政は、地頭館に一元化された。
国司・郡司から守護・地頭への権力の移行が全国的に完了するのは室町時代だが、むろん先行して実現した地方はいくらでもあった。
問題は鶴御前ら、心霊教の人々だ。
あきれたことに "阿弥陀教" という新宗教を立ち上げるらしい。やれやれ。
ボク「新代秘書インコ、仏教では、どうあっても成仏できない運命の人がいたんじゃなかったっけ?」
新代秘書インコ「一闡提〔いっせんだい〕です」
とは言うものの前回、観世音菩薩さまが "ここにいる全員が救済対象です" とはっきり言っちゃったから、連中もまた救われるんだろうな。
"阿弥陀" とは、サンスクリット "アミターユス (無限の寿命)"、"アミターバ (無限の光)" の音写だそうだ。物理学風に言い換えると "無限の時間" と "無限のエネルギー" になるのかな。
永遠にして無限の存在から見たら、人間の所業などとるに足りぬ小さなことだろう。人間同士のトラブルは、人間同士でなんとかするしかないのだ。
ところで阿弥陀さまは、秘書インコまで新調してくれた。最初に只丸くんから聞いたときには、なんのことか理解できなかったけど。
永遠にして無限の存在からしたら、新しいスマホをプレゼントすることもまた、わけないことだったろう。本当かよ?
とまれ、これもありがたいことなので、現代に戻るまでのごくごく短い間だけど説明係としてしっかり活用させてもらおう。
ボク「でも阿弥陀さまから貰ったスマホとなると、次回はおいそれと機種変更できないね」
新代秘書インコ「気にする必要はないです。これまで何台のスマホを乗り換えたか、思い出してください」
AIは、いつも優しい。
それにしても先代秘書インコには、かわいそうなことをした。つか "アシモフのロボット3原則" が適用されるとは思わなかった。大昔『わたしはロボット』なんかを読んだとき、もし将来ロボットや人工知能が実現されたら、必ずロボット3原則も実装されるだろうと思った。
ところがどうだ。AIにしろドローンにしろ、戦争に応用され放題じゃないか! 人を殺し放題じゃないか。
新代秘書インコ「それこそ人間同士で、なんとかするしかありません」
ボク「そうだよね…」
機会あるごとに。#NoWar 戦争反対! #CeaseFireNow あらゆる戦争に反対します。
ときに今ボクは地頭館にいて、本物 (って言うのか?) の善信さんと、イネさん、マメさん、只丸くんらが旅支度をするのを、所在なく見守っている。
イネさん、マメさんまわりでは金貸しや人買いとのトラブルが残っていたから、やはり逃げるしかなかったのだ。道案内は只丸くんだ。
幸い "嘘から出た誠" で、関東にある稲田家の若い当主である稲田頼重と、さらにその本家筋の宇都宮頼綱が、パトロンを買って出てくれたとのことだ。
この時代、長旅には多額の旅費が必要だ。ボク (?) が越後に流されたときの旅費は朝廷持ちだったが、関東への旅費は彼らが負担してくれるそうだった。
4人連れだと旅費も4倍だから、ありがたいと言うしかない。
ちなみに稲田頼重と宇都宮頼綱は、歴史上の実在の人物だ。興味のある人は検索してください。
ボクは彼らの出発まで、見守りたいと思った。それに紫雲寺は、都に向けて出発する大勢の人たちで、もっとごった返している。やることはなくても、地頭館にいるしかなかった。
とはいえ、ここに来たときと同様、笈〔おい〕に一切合財を詰め込むだけだった。そんなに時間はかからなかった。
まずは信州の善光寺を目指し、そこにしばらく滞在して追加の旅費が届くのを待つそうだ。
そうすると、人数ずっと多い都に行く人たちの旅費は、どうするんだろう? こっちの心配することではないけど。
「ところで…」善信さんが言った「私は名前を変えようと思います」
ボク「えっ?」
善信「郡衙が機能不全とはいえ、流刑地を脱出するわけですからね。あとくされは少ない方がいいです。それに私は、これまでも頻繁に改名しています。今の "善信" も、浄土教七祖から1字ずつ頂いたものにすぎません」
ボク「秘書インコ、教えて!」
新代秘書インコ「浄土教七祖または七高僧とは、インドの龍樹菩薩、世親または天親菩薩、中国の曇鸞大師、道綽禅師、善導大師、日本の源信僧都、法然坊源空上人です」
善信「これまでは善導さまと源信さまから、1字ずつお借りしました。被らないよう、次は天親さまと曇鸞さまからお借りしようと思います」
ここでタイトル回収! とっくにバレバレか。
イネさんが口を挟んだ「恐れ入ります、それでは私に "善信" さまの法名を1字お譲りいただけないでしょうか」
マメさんも続けた「私にも、お願いします」
善信さん、たった今改め親鸞さんは言った「不肖、私は弟子をとりません。念仏を信じる者はみな同朋、同志だからです。ですが法名でしたら、いいでしょう」
ちょっと考えて「イネさんは "善に目覚める" で "善覚"、マメさんは "信仰に恵まれる" で "恵信" はいかがでしょうか?」
イネ・マメ「ありがとうございます!」
善覚尼の名は歴史に残らなかった。だが恵信尼と、3年ほど後に生まれる予定の親鸞と恵信尼の娘、祖母と母から1字ずつ受け継いだ覚信尼は、日本最大の教団の基礎を築くにあたってとても大きな仕事をする。
そういえばマメさんは、21世紀のボクの妻の真琴とは、やはり別人だったのだ。
正直に告白する。マメさんがボクに好意を抱いてくれることを、ひそかに期待しないわけがなかった。
そしてマメさんがボクの方に熱い視線を向けることを、感じないこともなかった。
だけどそれは、ボクの肩越しに誰か別の人物を見ているのだ、とも思った。
これまで書かなかったけど、ボクは内心そんな謎も抱えていた。親鸞さんが現れたことでその謎が解けたことも、書いておかなければならない。
つか21世紀で真琴に出会い、真琴がボクを愛してくれたことこそが、奇跡だったのだ!
只丸くんが言った「すみません、僕にも法名を頂けないでしょうか?」
親鸞さんとボクは、ちょっと顔を見合わせた。"善" も "信" も、もう使ってしまった。
親鸞「それに只丸くんの名前は、亡くなったご両親からの唯一の贈り物と言えるし…」
ボクの脳裏に、ひらめくものがあった「"只" を言い換えて"唯"、"丸" を言い換えて "円"、"唯円" というのは、いかがでしょう」
親鸞「それはいい!」
こういうことを思いつくのは得意なのだ。どやっ!
只丸改め唯円坊は、ボクに向かっていった「最後にもう一つ、お願いがあります」
ボク「親鸞さまじゃなく、私にお願い?」
唯円「そうです」ちょっとためらって「"お父さん" って呼んで、いいですか?」
ボクは、自分の顔がくしゃくしゃになるのを自覚した「いいよ、聡己」別人どうなった?
唯円「お父さん!」
ボク「聡己!」ボクは幼児を抱き上げるように、唯円、いや聡己の両脇の下に手を入れ、高々と持ち上げた「重い!」
聡己「あたりまえだよ! 腰、大丈夫?」
ボク「生意気言うな!」
ボクは聡己の体を、ヘッドロックをかけるような体勢で抱きすくめようとした。
その瞬間、目が覚めた。
ボクは個室病棟のベッドに寝ていた。
傍らに真琴がいた。
ボク「ここは?」
真琴「病院」
ボク「聡己は? 結衣は?」
真琴「学校だよ。最初にそう言うと思った」
少し置いて、ボク「驚かないの?」
真琴「目を覚ましてくれると、信じてたから」
ボク「ごめん…」
真琴「謝らないで! もう謝っちゃったか。一度でいいよ」
ボク「ありがとう、は?」
真琴「そっちはいい」
ボク「ありがとう」
真琴は無言でうなづいた。そして、少し涙をぬぐった。
ボク「長い夢を見ていた。聞いてくれる?」
真琴「聞いてやる。でも、お医者さんを呼んでからね」
真琴は口で「ポチっ」と言いながら、枕元のナースコールのボタンを押した。
(この項つづく)
追記:
続きです。

