しいたげられたしいたけ

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浅田次郎『珍妃の井戸』(講談社文庫)

珍妃の井戸 (講談社文庫)

珍妃の井戸 (講談社文庫)

文句なしの五つ星。
清末の義和団事件後、進駐してきた日本など八ヶ国軍に蹂躙され尽くした北京・紫禁城内で、皇帝の愛妃・珍妃が井戸から遺体となって引き上げられた。ここまでは史実。妃を殺害した真犯人は誰か?派兵に参加した日・英・独・露の国籍を持つ四人の貴族が主人公となって、関係者にインタビューを重ねながら真相を解き明かそうとする、ミステリー仕立ての歴史小説。ただし純然たるミステリーではなく(解説者も言及していることだが)芥川龍之介の『藪の中』を強く想起させる。証言者の立場が違うと、視点も、そして誰が犯人かと言う結論も違ってくるのだ。そしてそのことは、アヘン戦争アロー号事件日清戦争義和団事件といった歴史イベントが、どの国の立場から見るかにより様相が一変することと二重写しになる。
本書と同じ国と時代を舞台とした前作『蒼穹の昴』と登場人物はかなり重なり、前作の読者には前作を生き延びた登場人物たちの消息が知られることが嬉しい。もちろん『蒼穹の昴』を読んでいなくても、十分楽しめる。