しいたげられたしいたけ

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倉沢愛子『「大東亜」戦争を知っていますか』(講談社現代新書)

「大東亜」戦争を知っていますか (講談社現代新書)

「大東亜」戦争を知っていますか (講談社現代新書)

戦史的な記述はあまりない。代わりに戦時下を生きた国内外の人々を、名前と顔を持った存在として描くことに力が注がれている。著者の研究舞台がインドネシアであるためインドネシアの人が多いが、「ベトナムのラスト・エンペラー」クォン・デ(本書では「クォンデ候」と表記される)も登場する。フィリピンやミャンマー(「ビルマ」と表記される)の、我々にもなじみのある人名も次々に登場する。
植民地支配下のアジア諸国というと未開のような偏見があるが、実際にはトヨタの自動車が大量に進出し(ちなみに中国大陸へは日産)「娯楽の王様」映画館では上映前後に日本の国策宣伝フィルムがどんどん回される、高度に発達した社会があった。そういう社会を運転するためには、当然軍人だけでは足りず官民問わず多数のホワイトカラーが必要となる。日本軍は各企業に従業員を占領地に赴任させることを命じ、命じられたら断ることはできなかったという。だが日本周辺の制海権は開戦早々から連合国側に奪われており、1942年に出航した大洋丸という客船は、アメリカの潜水艦に撃沈され817名もの犠牲者を出し、三井物産の社員は乗船していた55名中32名が、三菱商事は80名中50名が犠牲になったという(p107)。
命がけでたどりついた占領地で待っていたのは軍人によるいじめやいやがらせで、「自分たちは前線で戦っているのに、民間人のお前たちは軍人にもならずに利潤の追求のためにやって来た」というのが軍人たちの理屈だったという(p108)。繰り返し蒸し返される「強制連行」の問題も、こういう時代背景があってこそと言うべきか。
思うに軍隊を現地に派遣して力ずくで支配するという植民地統治形式は、20世紀中盤の時点でとっくに時代遅れになっていたのではなかろうか?それは日本の敗戦後インドネシアを再占領しようとしたオランダその他も同罪ではあるが。オランダは結局、国連を通じたアメリカの圧力によってインドネシアの再植民地化を断念した(p229)のだが、改めて考えると、同じ時期に市場統合と情報発信という二つの新しい武器を使って世界支配システムの構築をイメージしたアメリカが、すごすぎるのだ。時代に二歩も三歩も先んじていたのだ。足元に火がつきかけているというのに地球の反対側に首を突っ込んで抜けなくなってもがいている現代のあの国とは、とても同じ国だとは思えない。