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町田健『コトバの謎解き ソシュール入門』(光文社新書)

コトバの謎解き ソシュール入門 (光文社新書)

コトバの謎解き ソシュール入門 (光文社新書)

前半は「ラング(=日本語・フランス語などの総体としての言語)」と「パロール(個々人が個々の局面で発することば)」(p70〜)、「能記(ことばそのもの、シニフィアン)」と「所記(ことばが指し示す実体、シニフィエ)」(p100〜)、「共時態(同じ時代という断面から見たことば)」と「通時態(歴史的に見たことば)」(p132〜)など、有名なソシュールの用いた術語の解説が並ぶ。
で、この手の術語を攻略するときには「この語は何と何を区別するために導入されたのか」を考えるのが早道だということを知っているので、そうしながら読み進めていたのだが、「真に偉大なのは、そうした二分法というかダイコトミーというかを最初に提唱した人物なのではないか?」と思えてきた。まあ、そんなものの発明者はギリシャ時代あたりまでさかのぼらなければならないだろうから、名前なんて残っていないだろうけど…と思いつつ、次のくだりまで読み進んで、びっくりした。

 それでは、単語の意味が決まるしくみとは何なのかというと、他の単語の意味と「違う」という性質から導き出されるのだ、ということです。これだけだとちょっとわかりにくいのですが、たとえば「雪」という単語は、空から自然に落ちてくる個体の(正確に言えば結晶化した)水を表していますが、この単語の意味は、同じようなモノを表す「雨」「あられ」「ひょう」などとは意味が違う、ということから決まってきます。

(p176)
つまり私は、どっかで聞きかじったソシュール理論を使ってソシュールの術語を理解しようとしていたんだな。なお、どうでもいいことだが、引用文中の「個体」は「固体」の誤植のようです。
本書は、この前後(「第3章 ソシュールが明らかにしたコトバのしくみ」の(2)以降)が、一番の読みどころだと思う。人間が、もともと境界線のない森羅万象を理解するために、自然の上に描きこんだ境界線こそが「ことば」なのだというソシュールの指摘こそが、現代言語学の源流のみならず「構造主義」という巨大な現代思想の起点となったのである。
なお本書では扱われていないが、その「境界線」の上にこそ面白いものがいっぱいあるということも、書き添えておきたい。構造主義が最も影響を与えたジャンルである人類学では、例えばタブーの正体(『タブーの謎を解く―食と性の文化学 (ちくま新書)』が面白かったです)とか、あるいは科学技術では「半導体(=導体でも絶縁体でもないモノ)」とか「液晶(=固体でも液体でもないモノ)」とか…

タブーの謎を解く―食と性の文化学 (ちくま新書)

タブーの謎を解く―食と性の文化学 (ちくま新書)