🍉しいたげられたしいたけ

NO WAR! 戦争反対!Ceasefire Now! 一刻も早い停戦を!

塚本青史『王莽』(講談社文庫)

西暦のBCがADに変わる頃、中国では漢王朝が外戚の王莽によって簒奪されて滅び、新王朝が成立した…うまい時代に目をつけたものだなと思う。200年前の項羽v.s.劉邦の抗争や200年後の三国志の時代はさんざん物語の題材にされているのだが、なぜか前漢→新→後漢の王朝交代劇を扱った小説はあまり見かけない。『漢書』『後漢書』という、立派すぎるぐらいの元ネタはあるんだけど。
で、読んでみた。前半は、漢王室の衰退(と言っても宗家に世継がなかなか生まれないという、極めて即物的な現象なのだが)に起因する、後継者を奉じた有力者(=主に外戚)同士の激しい争いの中で、王莽の一族がトーナメントに勝ち残って全権力を手中にする過程が描かれる。後半は、ついに劉家から帝位を禅譲させ自ら皇帝となった王莽が、失政に失政を重ねやがて自滅するまでが描かれる。
うーん、王莽が小説の主人公になりにくかった理由は、なんとなくわかるような気がする。項羽や劉邦、あるいは曹操や劉備は、群雄なのだ。日本で言うなら戦国大名だ(劉さんちの方は、実態は無頼・遊侠の類に近かったとも聞くが)。一方、王莽とそのライバルたちは、宮廷人なのだ。日本で言うなら平安朝の藤原氏か?(永井路子に『この世をば』をはじめこの時代を扱った数々の名作があるそうだが、未読)
そして、後に王莽から皇帝の印璽を奪い返す劉秀は、地方豪族である。群雄に近い存在なのだ。つまり、何と言うのか、住む世界というか元々の土俵が違うのである。また両者の間には、項羽v.s.劉邦や曹操v.s.劉備のような、ドラマチックな直接対決の場面は史実として存在しないのだ。
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