200mを越す深海には、低温で栄養分とミネラルに富む深層水というのがあるということは、近年よく知られるようになった。ところが地球的に見ると、海流の働きによってこの深層水が、海面近くまで大規模に湧き上がる「湧昇(ゆうしょう)」と呼ばれる現象があることは、私はこの本を読むまで知らなかった。
表層水は光合成を行うことができるが栄養分とミネラルが不足している。深層水は光が足りない。このお互いに不足する要素を補い合わせることによって、人類が100億人まで増えたとしてもそれを養うに足るマグロなどの海洋資源が開拓できる可能性があるという、なんともスケールのでかい話である。
だが物事はそう簡単には進まなくて、ただ単に深層水が海面近くまで湧き上るだけでは、海洋の生態系の一番の基礎となる植物プランクトンは増えてくれないんだそうである。植物プランクトンを増やすには、さらに鉄(Fe)という元素が必要なのだそうで、生物が取り込みやすい形態の鉄は、もっぱら陸上から供給されるのだそうだ。へぇ…
じゃ、どうしたらいいのかというと、例えば表層水と深層水の温度差を利用した「海洋温度差発電(OTEC)」と組み合わせるなど(p171〜)、現在さまざまな可能性の研究が進行中なのだそうだ。
環境問題とか人口問題とかの現状を知ろうとすると、学べば学ぶほどブルーになる面があるが、たまにはこういう夢のある本を読むのもいいものだと思った。著者自ら「肩に力が入らないように脱力を心掛け(略)脱力しすぎて話が脱線する悪癖」(p183)があると言う文体も、やわらかい敬体で読みやすくてよかった。
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