しいたげられたしいたけ

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池内了『泡宇宙論』(ハヤカワ文庫)

宇宙論をもう一冊。文庫版1995年初版、単行本は1988年初版と少し古い本ではあるが。
銀河の分布を億光年単位で観測すると、グレート・ウォールと言って銀河が壁のように集合した部分や、ボイドと言って空洞状に銀河が存在しない部分が見つかる。著者らは、銀河の分布が泡状であるという仮説を立て、検証を試みている。
ボロノイ分布という簡単な泡のモデルがある。板の上に碁石をランダムにばら撒き、隣り合う碁石同士の間に垂直二等分線を引いてゆき、すべての碁石が囲まれたら分割完了とする(p194)。例えば水槽に魚を入れると、水槽の底面が魚の縄張りによってボロノイ分割されるという(p195)。
三次元になると話は二次元の場合ほど簡単ではないが、銀河団分布の相関を調べると、このボロノイ分割とかなり良い一致がみられるそうだ(p201〜202)。
「泡宇宙」と言っても、我々が住む宇宙とは別に物理法則の違う無数の宇宙が存在するとか、そういう方向の話題はない(実は少しそんな話も期待していたのだが)。
著者は、本書の最初の方(第2章)で「本書では「泡にまみれた宇宙像」を提示し、「偏見こそ真実を見抜く力」という逆説の試みを行ってみたい」(p57)と大胆な宣言を行っているが、読んでみると内容は観測と理論の積み重ねにより明らかにされた堅実な事実の提示というイメージである(それにしても、そのスケールの大きさには驚かされっぱなしであるが)。
だいたい専門家が自分の専門分野に関して一般向け解説書を書くと、手堅いものになることが多いようだ。宇宙論であれば理論物理屋さんとか数学屋さんとか、周辺分野の人が本を書くと、とんでもなく奇抜なものになることがあるように思う。『はじめての〈超ひも理論〉 (講談社現代新書)』の《付録》とかね。