しいたげられたしいたけ

空気を読まない 他人に空気を読むことを求めない

鈴木董『オスマン帝国―イスラム世界の「柔らかい専制」』(講談社現代新書)

オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書)

オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」 (講談社現代新書)

第2章の「コンスタンティノープルの攻防」は『生き残った帝国ビザンティン (講談社現代新書)』や『コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)』で、最終章第8章のレパント海戦は『物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)』で、欧州側の視点から詳述されているのを読んだことがあるが、イスラム側の視点から見ると物語は全然違って見えるものだ。
コンスタンティノープルを陥落させたメフメット二世は、確かに野心家ではあったろうが、一方で合理精神の持ち主だった。ハンガリー人の技術者ウルバンを招いての巨砲作成は有名だが、「ワフク」と呼ばれる宗教税を財源に、イスタンブールと改名された占領地で水道整備をはじめ様々な公共事業が行われたことを、私は本書で初めて知った(p81〜82)。またイスタンブールの人口を回復させるために、異なる宗教・宗派の住人を共存させるための政策も次々に打ち出された。ただし著者は、「ミレット制」すなわちオスマン帝国におけるムスリムと非ムスリムの共存システムの起源をメフメット二世とする説には、疑いをさしはさんでいる(p86〜)。
少し前の時代の十字軍がやったことは、単なる殺戮と略奪にほかならず、よく言われることではあるが、同時代のイスラム教徒とキリスト教徒を比較すると、異教徒に対しては前者のほうがはるかに寛容であった。
オスマン帝国の強盛の理由は、軍事力以外にも、文書行政力(第6章)や、門閥によらない人材登用システム(第7章)…「デウシルメ」と呼ばれる異教徒の少年の強制的な徴収という奇妙な制度も含めてではあるが(p215〜)などが語られる。そうすると、今度は逆に、それほどの帝国が第一次大戦直前には「瀕死の病人」と呼ばれるまでに衰弱した理由を知りたくなるが、本書ではそこまでは扱われていない。けだし衰亡しない帝国は存在しないのである。
生き残った帝国ビザンティン (講談社現代新書)

生き残った帝国ビザンティン (講談社現代新書)

コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)

コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)

物語 スペインの歴史―海洋帝国の黄金時代 (中公新書)