しいたげられたしいたけ

空気を読まない 他人に空気を読むことを求めない

サイモン・シン、(訳)青木薫『宇宙創成』〈上〉・〈下〉(新潮文庫)

宇宙創成(上) (新潮文庫)

宇宙創成(上) (新潮文庫)

宇宙創成(下) (新潮文庫)

宇宙創成(下) (新潮文庫)

これを力作と言わずしてなんと言おう?文句なしの私的五つ星。
第I章(上巻)では、ギリシャ以来の「地球中心説」(天動説)を、「太陽中心説」(地動説)が次第に覆してゆく経緯が述べられる。太陽中心説は意外と古くからあったが、西暦1000年頃までの知見によると、様々な評価基準で地球中心説は太陽中心説を圧倒していた(上巻P56〜57の「表2」)。しかるにケプラーの精密な天体観測、ガリレオの望遠鏡を用いた観測などにより新たな知見が蓄積されるにつれ、両者の優劣は拮抗してゆく(上巻P106〜107の「表3」)。
実はこれは、「定常宇宙モデル」と「ビッグバンモデル」の対立という第II章以降の主題かつ本書全体のメインテーマへの、プレリュードだったのだ。
定常宇宙を導くため一般相対性理論の重力方程式に「宇宙定数」項を付け加えたアインシュタインを筆頭に、多くの学者は宇宙を一定不変と考えた。しかるにロシアの数学者アレクサンドル・フリードマンやベルギーの宇宙論者ジョルジュ・ルメートルは、宇宙定数を受け入れず動的宇宙モデルを構築した。
下巻第IV章では、宇宙に存在する水素:ヘリウム:その他の元素の10:1:極微量という比率について、ジョージ・ガモフとラルフ・アルファーがビッグバン・モデルに基づき計算した理論値が観測値と一致した経緯が述べられる。
第V章では、フレッド・フォイルが、炭素以上の重い元素が合成されるためには、炭素の原子核に7.56MeVの励起状態が存在しなければならないと予測し、ウイリアム・ファウラー率いるチームがまさしくその値の励起状態を発見したこと、アーノ・ベンジアスとロバート・ウィルソンがビッグバンの残響とされる「CMB放射」(宇宙マイクロ波背景放射)を発見したこと、さらにはCOBE(宇宙背景放射探査衛星)プロジェクトが、銀河形成のタネである「CMB放射のゆらぎ」の観測に成功したことにより、ビッグバンモデルの正しさがついに立証されたことが述べられる。
「文庫版訳者あとがき」には、「本書の真の主人公は、《科学的方法》だったのだ」と書かれているが、全面的に賛同である。本書にはその名は登場しないが、科学哲学者カール・ポパーの「反証主義」を強く想起する。