しいたげられたしいたけ

空気を読まない 他人に空気を読むことを要求しない

鴨志田穣、西原理恵子『最後のアジアパー伝』(講談社文庫)

私的に五つ星。こういう言い方をするのは本当に済まないと思うんだけど、著者のカモちゃんは、紛争中の国や地域にいた状況を描くときに、本領を発揮するというか筆致が最も生き生きしているように思われる。
本巻では、ハシダさんこと橋田信介氏率いる戦地取材班「チームハシダ」は、カンボジアの自衛隊駐留地で、暑さのため自衛隊員が食べ残したカレーライスを、現地の子どもを追っ払ってポリバケツからあさったりする(p33)。あるいは、クロアチアのリゾート地でぎっくり腰に見舞われたハシダさんを診たサラエボ出身の女医さんが、「チームハシダ」がサラエボに取材に入ると知って、サラエボに残してきた家族へ持って行ってほしいと40kgもの食料品や生活用品を涙ながらに預けると、「チームハシダ」のメンバーたちは即座に開封して中味のハムやワインをむさぼり始める(p149)。
個人的には、生きるために生ゴミをあさるのは恥ずかしいことでもなんでもないと思う。だけど誰かから交戦地帯に住む家族への荷物を預ったら、それが誰から預ったものであれ、自分が撃たれてもその荷物を守りたいと思うのは、平和な国にいる者の甘ったるい感傷なのだろうか。そうなんだろうな、多分。
紛争中のサラエボは、どうやってもシャレにならんくらいヤバかったらしい。大通りはスナイパーストリートと呼ばれ、山にたくさんのセルビア人狙撃手が潜んで、一般市民に無差別に銃弾を浴びせていたという(p176)。
実際に戦地に立った彼らは、戦地に立ったことのない者よりも、偉いのだ、絶対に。
ハシダさんは後にイラクで命を落し、カモちゃんはアルコール依存症が悪化して入退院を繰り返すようになる。
「あとがき」の最後の2行を読んだとき、年甲斐もなく泣いた。