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再読|吉川幸次郎『漢の武帝』(岩波新書)

漢の武帝 (岩波新書 青版 (24))

漢の武帝 (岩波新書 青版 (24))

たまたま手にとって読み始めたら、止められなくなって一気に読んでしまった。面白いなぁ。自分が新書というジャンルに期待するのは、まさしくこういう内容だと感じる。
漢の武帝は、2100年前の漢王朝の最盛期に、50余年にわたり君臨した皇帝である。前半生においては、衛青、霍去病〔かくきょへい〕という名将を使って匈奴討伐に成果を上げ、後半生においては皇太子を自らの手で死に追いやるという悲劇に見舞われるなど、ドラマチックな生涯を送っている。
それにしても、なぜ古い世界に思いを馳せることが、時としてこれほど快いのだろう?古代の地層の中から、碩学たちの手によって掘り出され復元された人間像は、必然的に、おそらく身にまとっていたであろうあらゆる虚飾を剥ぎ取られ、わかりやすい姿を我々の眼前に現す。衛青と霍去病は、非常に有能な武将であっただろうが、そもそも武将として抜擢されたのは皇后の縁者(衛青は皇后の弟、霍去病は甥)という情実によるものだった。彼らが闘った匈奴は、その国家・民族・文化の情報が失われてしまった今日では、遠慮なく「やられ役」と見るほかはない。使命を果たすために宮刑により生を購った司馬遷の苦悩を想像することは、あたかも奈落を覗きうかがうようであるが、それでも司馬遷は偉大すぎるため大いなる悲劇さえも似つかわしく感じられる。
つまり、古代は我々とあまりに隔たっているがゆえに、安心できるのだ。
言葉を変えて言うと、教養とは実用には役に立たないものだ。役に立たないのがよいのだ。
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