- 作者: 白戸圭一
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2009/07/31
- メディア: 単行本
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『日本人のためのアフリカ入門』は、日本人のアフリカに対する偏見を次々と覆し、あえてこの大陸の未来への希望に光を当てる内容だったが、本書は逆に、アフリカの影の部分を容赦なく暴き出す内容になっている。
著者の取材力は、すごいの一言である!虐殺のルワンダに、無政府状態のソマリアに、内戦のスーダンに、とにかく足を踏み入れる!それらの内容は、容易に要約を許さないどころか、正直私自身の中でとても消化しきれているとは言えない状態である。
だから例によって思いっきり邪道な、おそらく著者がまったく意図していなかったであろう読み方を。
アフリカの貧富の差は、のっぴきならぬ状況になっている。
本書にはナイジェリアなどアフリカ産油国の現状も報告されているが、オイルのもたらす莫大な富は外国資本や石油公社幹部ばかりを潤し、現地の住民は環境悪化のコストだけを押し付けられている状態にある(松本仁一『アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書)』にも、そうした報告があった)。
いわゆる先進国において、貧富の差の問題が解決しているとは全く思わないが(それどころかどの国でも貧富の差は拡大傾向にあるように見受けられるが)、それにしてもアフリカに比べれがかなりマシなはずだ。
何が違うのだろう?
現在、先進国と言われる国々はみな、その発展段階において、石炭を主要エネルギー源としていた時代を経験している。
一方アフリカは、主要エネルギーを石油を頼る時代に、発展しようとしている。
唐突だが、近年、経済というものを考える上で、サプライチェーン(あるいはバリューチェーン)と呼ばれるものを意識しなければならなくなっている。「産業のピラミッド構造」とも呼ばれるアレである。
石炭の時代においては、サプライチェーンがなかったはずはないのだが、それがあまり意識されていなかったように思われる。
掘り出した石炭は、乾燥させ、袋に詰めれば最終製品になるからだ。せいぜいコークスやコールタールがあるくらいだ。
石炭の、工業製品としてのこの単純さが、「労働者」と「資本家」という社会的な対立構造を明確化することにつながり、労働運動が力を持ち、結果として様々な社会変革を実現したとは考えられないか?
一方石油は、最終製品に至るまで多くの工業プロセスを必要とする。つまりサプライチェーンが無視できないのだ。
工程ごとに細分化された石油プラントは、労働者をも細分化して囲い込むし、また労働者をテクノクラートから単純労働者までスペクトル分割するため、石炭時代のような「総労働と総資本の衝突」といった構図は生まれにくくなる。
私ははっきり言って左翼であるから、世の中の変革の原動力として市民あるいは労働者の連帯に期待している。それ以外に何に期待しろというのだ!しかし産業が高度化し、サプライチェーンがどんどん複雑化している世界状況の下においては、それに適切に対応した労働運動のモデルを構築できなければ、市民・労働者の自力による自己救済はおぼつかないのではないかと恐れる。
これは、現状分析が正しいのかも含めて、どっから手を付けたらいいのか見当がつかないほど、でかい問題のように思われるのだが。
あ、本書にはそんなことは一言も書かれていませんからね。本書をきっかけとした、私のただの妄想ですからね。念のため。
ちなみに本書は朝日新聞出版から文庫版が出た。個人的に応援したい、より多くの読者を獲得してもらいたいと思っている本だから、めでたい。
- 作者: 白戸圭一
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/02/07
- メディア: 文庫
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