しいたげられたしいたけ

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林壮一『アメリカ下層教育現場』(光文社新書)

アメリカ下層教育現場 (光文社新書)

アメリカ下層教育現場 (光文社新書)

好著!個人的五つ星。
スポーツライターとして米国に滞在する著者は、大学の恩師の紹介で、日本文化の授業を担当する非常勤講師として高校の教壇に立つことになった。ところがその高校というのは地元でも札付きの「最底辺高」で、床にはスナック菓子の空き袋が散らばり、生徒たちは「トイレに行きたい」と言って出て行ったきり戻ってこないなど荒れ放題のありさまだった。
著者は生徒たちを公園に連れ出して、「日本の国技である相撲でもやってみようか」とクラスで一番の巨体を誇る生徒と組み合ってみせるなど、文字通り「体当たり」で生徒たちと打ち解けようとする。
しかし著者の直面する困難は、教室内だけではない。高校の校長は日本人である著者に対する人種偏見を隠そうとはせず、職員会議を著者だけには通達しない、職員室や印刷室の合鍵を渡さないなど理不尽な仕打ちを次々に与える。
この手の本の約束事として、著者は少しずつ生徒たちの心を掴むことに成功するのだが、その理由を著者は明示的には書いてはいない。自慢っぽくなるからだろうか?著者が生徒たちからの人望を勝ち得た理由を読者の立場から想像してみると、おそらくは著者には人種偏見がないこと、パールハーバーを教材に取り上げた際に日米双方の視点を紹介するなど複眼的なものの見方ができること、それにスポーツマン的な明るさに溢れていることだろうか。
著者の語るところによると、かつて著者自身が通っていた高校は勤務校より「ややマシというレベル」の「三流」とされる高校で、私大を経由して新卒で就職したテレビ番組制作会社は「1日17時間も拘束され、月給は手取りで僅か16万3千円」(p128)だったという。アメリカは日本以上の学歴社会で「高校卒業のキャリアしかない人間が、時給10ドルや月給1600ドル等の賃金で喘ぐ様を数多く見た」(p173)と書かれているが、アメリカ社会と日本社会がつい二重写しに見えてしまう。
だが希望へ向けた努力もまた続けられている。後半の第4章以降では、著者が「教壇に立った経験をアメリカ社会で生かせないか」と、「ユース・メンタリング(YOUTH MENTORING)」という活動にボランティアとして登録し活躍する様子が語られる。ユース・メンタリングというのは、親でも教師でもない第三者の大人が、週に1回、何らかの問題を抱える子どもと「歳の離れた一人の友人」として一対一で向き合うのだそうだ(p182)。低所得者のコミュニティでは、常識はずれの大人が独自のやり方で子どもと接するため、10歳になるかならないかの歳でアルコール、ドラッグ、喫煙、凶器の携帯などを覚えてしまうことがあるという(p196)。
ボランティアたちは、事前にインストラクターから様々な注意事項を授けられる。その中には、「状況に応じて20種類の褒め言葉を使い分けろ」という指示も含まれている。曰く…

・素敵だね!
・素晴らしい考えだ
・いい仕事をしたね
・素晴らしいよ
・キミは覚えるのが早いねぇ!
・キミがその事を出来るって、こちらは分っているよ
・トライし続ければ、必ずやり遂げられるさ
・まさに、その通りだね!
・ずば抜けているね!
・上手く進んでるじゃないか
・キミがどうやって、それをやったのか僕にも見せてくれるかな?
・それこそが、進むべき道だね
・完璧だ!
・最高だ!
・どんどん良くなってるじゃないか
・僕はキミの言ってる事がよく分るよ
・キミの言葉、きちんと理解できたよ
・立派だ!
・僕はキミを誇りに思うよ
・お見事!

(p197〜199)
そして著者は、メキシコからの移民で、家族とのコミュニケーションがスペイン語だけのため英語での学習に遅れが見られるという10歳の男の子の「歳の離れた一人の友人」になる…
私はこの著者が好きである!応援したい!こういう場合にどうすればいいかというと、同じ著者の本を買うのがもっとも手っ取り早いので、amazonで手当たり次第に注文してしまった。実は最近では『反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)』の湯浅誠氏の本も、『がんばれ仏教! (NHKブックス)』の上田紀行氏の本も、同様のことをしてしまったので、今、部屋の中はものすごいことになっているのだが…